2026 年 6月 13日 (土)
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[KWレポート] 日韓ビジネス仕事人(7) ビットコインの「価格差」に着目、東京で起業した韓国人若手CEOの哲学

Hyperithmのロイド・リーCEO=同社提供(c)KOREA WAVE

韓国出身で日本を拠点に活躍する気鋭の起業家がいる。暗号資産運用サービスを展開する「Hyperithm(ハイパーリズム)」(東京都中央区)のCEO、ロイド・リー(Lloyd Lee、李沅俊)さん(33)だ。韓国にいた高校3年時の初めて起業し、それ以来、起こした会社は4社に上る。日韓のビジネス界や暗号資産金融市場をつなぐ架け橋として注目を集めるロイド・リーさんに、日本と韓国のビジネス環境の本質的な違いや、国境を越えた挑戦への思いについて話を聞いた。【KOREA WAVE編集長 西岡省二】

ロイド・リーさんは1993年、韓国ソウル生まれ。ソウル大学で政治外交学を専攻し、経営学を副専攻した。在学中にはシンガポール国立大学(NUS)に交換留学し、国際的な視野を広げた。のちに早稲田大学大学院経営管理研究科(WBS)でMBAを取得した。大学時代にはソウル大学の匿名コミュニティー「SNU Bamboo Grove」を立ち上げた。韓国空軍では通訳兵として勤務した。米経済誌フォーブスの「Forbes 30 Under 30 Asia 2022」にも選出された実績を持つ。

Hyperithm提供(c)KOREA WAVE

――来日のきっかけを教えてください。

2017年、24歳の時に日本に渡りました。高校3年の時から起業に取り組んでいます。最初に手掛けたのは、模擬国連を対象としたカンファレンス事業でした。ソウル大学在学中の2013年には、学内で広く知られるオンラインコミュニティ「ソウル大竹の森(ソウルデ・デナムスプ)」を立ち上げ、さらに共同創業者として共同購買プラットフォーム「Seoulprice」の運営などにも携わりました。

日本との血縁や学縁は一切ありませんでした。韓国で偶然、料理教室を展開する「ABCクッキングスタジオ」の創業者ファミリーと知り合ったことです。当時は同社の名前すら知りませんでしたが、その縁から2017年に来日し、創業者のファミリーオフィスで秘書として働き始めました。カバン持ちからミーティングへの同席、経理業務に至るまで、文字通り右腕として実務全般を担う貴重な経験を積みました。

――ビットコインとの出会いはどのようなものでしたか?

当時、日本での給与を韓国へ送金する際、大手銀行の窓口を利用すると1回あたり約8000円の手数料を徴収されていました。10万円を送金するだけで約8%が目減りしてしまう状況に疑問を抱き、別の手段を調べる中で行き着いたのがビットコインを用いた海外送金でした。2017年5月のことです。

調べてみると、当時のビットコイン価格は日本で約30万円だったのに対し、韓国では約33万円で取引されていました。手数料を節約する目的で送金しただけなのに、国境を越えると資金が増えるという不思議な現象が生じていたのです。これが、韓国市場で暗号資産が海外よりも高く買われる「キムチプレミアム」と呼ばれる現象で、一時期は最大で40%もの価格乖離が発生しました。

日本で150万円のビットコインが韓国では210万円相当になる計算で、日本で購入して韓国で売却すれば、それだけで莫大な差益(アービトラージの機会)が残る環境でした。

暗号資産ビットコイン(c)AFP/news1

――その価格差に着目したわけですね。

そうです。事業化を進められないかと考えました。当初はABCクッキングスタジオの社内プロジェクトとして実施することを模索していましたが、最終的には親会社の既存事業との相乗効果が薄いとの判断に至り、独立して、2018年1月に今の「Hyperithm」を東京で創業しました。ソウルにも拠点があります。

当時は暗号資産という新しいアセットクラス(投資資産の分類)が立ち上がる黎明期で、ファーストムーバー(先駆者)として市場に参入すれば大きなチャンスがある――こう考えました。

伝統的な金融の世界では、プライベート・エクイティなどを手がけようとしても、すでに100年以上の歴史を持つ老舗企業が数多く存在し、新規参入者が割って入る余地は限られています。しかし、暗号資産(仮想通貨)やWeb3(次世代の分散型インターネット)の世界は全員が同じスタートラインに立っており、圧倒的な実績を持つ先輩がいませんでした。『自分たちにも勝機があるかもしれない』という確信が起業を後押ししました。

――「Hyperithm」とはどんな会社ですか。

日本や韓国で初となる機関投資家・富裕層向けの暗号資産金融サービス会社です。主に「暗号資産の運用事業」と「ベンチャーキャピタル事業」を展開しています。運用事業では、相場変動の影響を極力受けない市場中立的なアービトラージ戦略に特化しており、市場の浮沈に左右されない安定した運用を実現しています。

具体的には、固定利率型の暗号資産レンディングサービスや、成果報酬型のアクティブファンド(日本円・米ドル建)などを提供しています。ベンチャーキャピタル事業においては、世界各国の55件以上のWeb3プロジェクトへ出資し、強固なグローバルネットワークを構築しています。

変化の激しい暗号資産業界において、創業以来8年以上にわたり一貫して黒字経営を維持している点が大きな強みです。その優れた財務基盤と実績から、韓国のサムスン電子やIT大手カカオ、米暗号資産交換業大手コインベース、LINEといった各国のグローバル大手企業から株式による資金調達を実現しています。

今年はHyperithmのケイマン籍のファンドを立ち上げ、グローバルの機関投資家への受け皿をさらに広げています。

――社名の由来は?

Hyperithmとは「Hyper(ハイパー)」と「Algorithm(アルゴリズム)」を組み合わせた造語で、私が命名しました。その理由は「.com」のドメインを取得するため。既存の単語では「.com」のドメインはだいたい取られてるんですね。新しい言葉を作ることで独自のドメイン名を確保したというわけです。

――日本での起業に戸惑いはなかったですか?

来日して1年目、かつ見知らぬ土地で起業に踏み切ることは、心理的に非常に大きなハードルがありました。挑戦すべきだと頭では理解していても、崖からジャンプしようとする瞬間に足がすくんでしまうような停滞期があったのです。

その際、背中を押してくれたのが、韓国のカカオでした。2018年1月、同社の創業者であるキム・ボムス(金範洙)氏と偶然お会いする機会がありました。キム・ボムス氏は日本を好み、頻繁に来日して都内のホテルに滞在されていました。当時、ブロックチェーン市場が急速に盛り上がる中で日本の動向に関心を寄せておられ、韓国の若者が日本でWeb3関連の起業に奔走している現状を知り、カカオとしてエンジェル投資の実施を決定してくださったのです。

実質的な経済的価値以上に、この投資がもたらした心理的サポートは計り知れませんでした。韓国を代表する大企業が自分たちの将来性を認め、株式を通じた資金調達に応じてくれたという事実、つまり自分のビジネスモデルやビジョンが肯定されたという自己認識が、大きな自信へとつながりました。

(c)KOREA WAVE

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