
韓国で「救急のたらい回し」による悲劇が相次いでいる。京畿道龍仁市では最近、交通事故に遭った70代の老人が2時間、11カ所の病院から「収容不可」の通知を受けた末、救急車の中で死亡した。今年3月、大邱市では建物から転落した10代の学生が2時間、救急救命室での治療を受けられずに死亡した。
昨年、病床と医師不足などの理由で救急救命室から他の病院に再移送された事例は13万件に迫る。韓国政府は2005年から5年ごとに「応急医療基本計画」をまとめ、応急医療システムの改善を図っているが、患者が適時に治療を受けられず、病院外で死亡する不幸は繰り返されている。20年余りにわたる対策を進めながら、「たらい回し」が日常化している根本原因を点検してみたい。
◇5年ごとに「応急医療基本計画」
韓国で「応急医療に関する法律」が制定後、政府は5年ごとに「応急医療基本計画」を策定し、約20年にわたり応急医療体系を整えてきた。この期間、生死の岐路に立った救急患者のうち半数は「ゴールデンタイム」内に救急救命室に到着できない現状がわかった。
これまで4回にわたり基本計画が立てられたが、重症救急患者が適正な時間内に最終治療機関に到着する割合は、引き続き50%台にとどまった。根本的な原因は、必須医療科の専門医不足が明らかなのに、専門医拡充のための対策が基本計画に抜け落ちてきたからだ。保健医療界からは、重症救急患者向けの専門医を適正採用するよう病院に求めるための法整備が必要だとの声も上がる。
MONEYTODAYは過去4回作られた基本計画を分析した。
第2次基本計画(2013~17)からは、核心的な指標として「重症救急患者の適正時間内の最終治療機関到着比率」が使われ、患者が病院で適正な医療が受けられたかどうか検証している。
このうち適正時間到着比率は、発病24時間以内の患者のうち▽急性心血管疾患2時間以内▽虚血性脳卒中3時間以内▽重症外傷1時間以内――に来院した患者数をもとに計算される。「ゴールデンタイム」内に救急救命室に到着した重症患者の割合を示す指標だ。
2次基本計画によると、2012年時点の適正時間到着比率は48.6%だった。当時、政府は2次基本計画が完了する2017年の目標として60%を提示していた。しかし、2017年時点の適正時間到着比率も、目標値に及ばない52.4%で、その後も目標に到達していない。
政府は今年準備した「第4次基本計画(2023~27)」でも5年後の目標値を60%と提示している。
◇専門医不足の現状
過去20年間、なぜ目標がクリアできないのか。最大の原因は、重症救急患者を担当する「専門医不足」が改善されないため――というのが保健医療界の指摘だ。
まず、救急救命室に常駐する救急医学専門医が不足している。1人の救急医学専門医が年間4400人以上の患者を診ている。応急医学専門医がいたとしても、その過重な働き方も問題だ。急性心筋梗塞、虚血性脳卒中、重症外傷は、重症患者の救急室訪問の3大主要原因だ。
心臓内科、神経科、外科などの専門医も各病院に十分な人数がいるとは言えない。このため、病床があっても手術する医師がおらず、病院からは「収容不可」の通知が出され、患者は病院をたらい回しに遭ってゴールデンタイムを逃している。
消防庁の資料によると、この5年間、救急車が初めて到着した病院で、収容不可となる最大の理由は「専門医不在」(31.4%)だった。
しかし、専門医不足の現状を表す指標は、これまでの基本計画に使われたことがない。
保健医療界では、医大定員拡大と並び、病院別の必須医療専門医の数を確保する法制化が必要だという声が出ている。
ソウル大学医学部のキム・ユン医療管理学教授は「病院ごとに応急重症患者を扱う専門医の採用数を合わせるようにする法的根拠がない。このため救急室を転院させられる確率が高くなり、たらい回しが毎回繰り返されている」と述べた。
(つづく)
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