
「二度と私のような被害者を出したくない」――。韓国のキリスト教系新宗教「キリスト教福音宣教会(JMS)」の教祖、チョン・ミョンソク総裁から性暴力を受けたサバイバー、メイプルさんのこの願いは、2025年に韓国最高裁がチョン・ミョンソク総裁に懲役17年の実刑判決を言い渡したことで、ようやく一つの区切りを迎えた。教団トップや幹部らの有罪を導き出した背景には、検察による「補完捜査」があったが、いま韓国ではこの捜査権を巡る法改正が波紋を広げている。
加害者からマインドコントロール(洗脳)された性犯罪被害者の供述は、裁判の場で「証拠不十分」とみなされやすい。被害者が拒絶の意思を示せなかったことが「同意」と誤解されたり、被害者自身も自分が犯罪に巻き込まれたと認識するまでに長い時間を要したりするためだ。
メイプルさんの告白を「準強姦罪」として立証するためには、言葉を裏付ける客観的な証拠が不可欠だった。
警察から送致を受けた検察は、事件の背景を掘り下げる「補完捜査」に着手した。メイプルさんがなぜ数年間にわたりチョン・ミョンソク総裁に抵抗できなかったのか、その理由を解き明かすためだ。検察は脱退した信者30人への追加聴取や、教団施設への家宅捜索を敢行。教団の教理がいかに組織的な性暴力に利用されていたかという、醜い実態を暴いていった。
判決は、この事件をチョン・ミョンソク総裁個人の犯行ではなく、教理で信者を縛り付けた教団上層部による「組織的犯罪」と認定。教団のナンバー2を含む幹部らにも次々と懲役刑が下された。警察段階では十分に立証できなかった容疑が、検察の緻密な追加捜査によって崩れない「犯罪の構造」として立証された形だ。
補完捜査とは、1次捜査(警察捜査)で不十分だった事実関係を再び究明し、起訴の前に実体的真実に近づくための手続きだ。特に性犯罪や、子ども、障害者を対象とした犯罪では、被害者の供述が唯一の直接証拠となるケースが少なくない。だからこそ、起訴・公判の過程で証言が覆らないよう、検察による綿密な裏付け捜査が重要視されてきた。
しかし、韓国政府は6月25日、この検察の「補完捜査権」を廃止する方針を決定。翌日には与党側から、全面廃止を盛り込んだ刑事訴訟法改正案が提出された。
政府方針に賛同する側は、「検察には警察への『補完捜査要求権』が残るため代替できる」と主張する。だが、捜査を強制する法的な手段はなく、検警間で事件の押し付け合いが起きている現状では、実効性は不透明だ。
過去の検察による権限乱用への反省から、「検察改革」の必要性自体を否定する声は少ない。しかし、その改革が加害者の処罰や被害者救済という「正義の実現」を後退させるものであってはならないはずだ。
検察の権限を縮小した後に実効性のある仕組みが作られなければ、捜査の空白による不利益を被るのは、法改正を主導した政治家ではなく、裁判で救われるべき一般の国民や被害者たちに他ならない。【news1 ソン・ソンイ記者】
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