2024 年 5月 13日 (月)
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「デジタル治療剤」手掛ける経営学者

Startup Story ~~ 成功のカギ

HAII キム・ジヌ代表

HAII キム・ジヌ代表©MONEY TODAY

◇バイオマーカーとAI統合、次世代デジタル治療

「それ、名前なんだっけ?」。大したことないと思っても、記憶にあるものが、出そうで出ないことが頻繁に起きれば、不安も大きくなる。認知症を予防するには、自分自身の状態をきちんと把握することが重要だ。だが、多くの人が診断を受けることさえためらい、治療のタイミングを逃してしまう――。

スタートアップ「HAII」が開発しているのは「デジタル治療剤(DTX)」。認知症だけでなく、不安や鬱などの精神疾患かどうかを早期に測定し、さらに予防するためのものだ。デジタル治療剤は人工知能(AI)を活用した疾患の補助診断から、予防・改善・管理まで手掛けるソフトウェアである。飲む薬のように定期的に使いながら、患者の症状改善に役立てている。

世界的に注目を受けるデジタル治療とは。「病気の治療と健康回復を目的にしたソフトウェアやアプリのことです。医学的な研究結果をもとに設計し、薬や器具がなくても、症状改善などの治療効果を得ることができます」。キム・ジヌ代表はこう説明する。

キム代表は韓国国内でUXでトップクラスの専門家だ。延世大で27年間、経営学科の教授として在職しつつ、先端機器やソフトウェアをより直感的に、簡単に利用できるようにする「HCI」を専門に研究してきた。

2016年創立した「HAII」も、最初は病院や医療施設から要請を受けて、既存の診断方式をデジタル化したり、一般にも使いやすい「ウェルネス(精神健康)」アプリを作ったりした。年に7〜8、デジタル治療剤の試作品を開発し、実証段階を経て、有意義な症状改善データを確保してきた。昨年から「デジタル生体医学信号(バイオマーカー)感知」と「AI治療・管理」を統合した次世代デジタル標的治療を開発中だ。

◇「補助診断」から「治療」へ

「HAII」の次世代デジタル標的治療剤とは――使用者がアプリで問診を受ける間に、音声・視線・心拍変動(HRV)などのバイオマーカーを感知して異常な兆候を探知し、測定の信頼度が高くなるように設計した。

こうして収集したデータにより、AIが既存のデジタル治療剤より、さらに向上した最適な治療を設定する。

キム代表は「デジタル治療剤によって、市場は初期の『補助診断』から始まり、現在の『治療』まで発展しました。次の段階は、既存の診断と治療を一つのソフトウェアに統合した『最適標的治療』が中心になるでしょう」と見通す。

「HAII」は現在、汎不安(情緒)障害、認知障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、麻痺性言語障害――など4つの主要なパイプラインを持っている。臨床進行段階が最も早いのは、汎不安障害治療剤である「心の検査」と「心の庭」だ。汎不安障害は不安・鬱などを包括した精神疾患だ。「心の検査」では問診過程でバイオマーカーを測定し、続いて「心の庭」により、AIチャットボットが症状を緩和できる訓練を反復する。

2021年上半期の韓国・食品医薬品安全処(MFDS)で「優秀医薬品製造及び品質管理基準(GMP)」認証を獲得した。GMP認証はデジタル治療剤など2等級以上の医療機器品目の許可と生産のために不可欠なものだ。キム代表は「7月に申請したMFDSの臨床試験計画が承認されれば、2022年1月から本格的に試験を進める」と説明した。

もう一つは軽度の認知障害の治療剤だ。日本の製薬大手エーザイの韓国法人とともに、認知症早期発見・予防サービスを共同で進めている。これも、やはり検診用「アルツガード2.0」とAIチャットボット「サミー」で構成されている。20分ほどの間、認知障害の検査をしながら、バイオマーカーを測定し、AIチャットボットがカカオトークメッセンジャーを活用して認知訓練を助ける。

アルツガードは、全羅南道(チョルラナムド)順天(スンチョン)の農協とのデモンストレーション事業で、測定精度が80%以上の結果が出た。

これは、保健所など医療施設の検査と同レベルだ。2022年には、デモンストレーション規模を1万人以上に拡大する計画だ。

◇UX設計を差別化

「HAII」の差別化されたポイントの一つは「服薬順応度(反復使用率)」が高いという点だ。良い薬も服用しなければ意味がないように、しっかり設計されたデジタル治療剤も反復して使わなければ意味がない。実際によく知られたデジタル治療剤の中では、1週間後の順応度が10%に満たない事例もあった。100人が処方を受けても、1週間後に10人しか使わないことになる。

デジタル治療剤がスマートフォンなどの機器で使えるようになったため、ゲームのように反復してほしいという説明だ。キム代表は「順天の農協でのデモンストレーション事業で3カ月間の順応度が45%だった。デジタルに馴染みのないお年寄りたちも反復できるよう、使いやすく設計したことがポイントだ」と強調した。

「HAII」は2022年、米国や欧州市場への進出を計画している。上半期中には大規模な後続投資誘致も推進する予定だ。キム代表は「米欧市場で汎不安障害治療剤の臨床認証のための手続きを進めます。国内外で少なくとも3個以上の許可品目を確保するのが目標です」と語った。

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