2025 年 6月 13日 (金)
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韓国大統領選、核心的争点に浮上した「AI開発」と「インフラ戦略」の中身

人工知能(AI)の開発とインフラ戦略を核心争点として激しく対立する大統領選候補=中央選挙放送討論委員会(c)KOREA WAVE

韓国大統領選挙(6月3日)の候補者たちが、人工知能(AI)の開発やインフラ戦略などの争点をめぐって激しく対立している。「主権型AI(Sovereign AI)」技術の確保から電力・労働規制に至るまで、今回の大統領選で政策主導権を左右する様相を呈している。18日に開催された候補者討論会では、その流れが表れた。

業界では、すべての候補がAIを具体的な政策議題として取り上げた点は歓迎しつつも、予算の調達方法や事業の主体など、実行に向けたロードマップが欠けている点については補完が必要だという反応を示した。

◇韓国にも「ChatGPT」を…李在明氏「主権型AI開発」

この日の討論会で、「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)候補は、国内のデータを基盤とした独自の大規模言語モデルを開発し、国民誰もが「ChatGPT」のようなサービスを無料で使えるようにすると明らかにした。

このイ・ジェミョン氏の主張は、OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」などに代表される海外製AIへの依存度を下げ、技術主権を確保しようとする構想だ。討論会でイ・ジェミョン氏は、ユン・ソンニョル(尹錫悦)前政権による研究開発(R&D)予算の削減を批判し、先端AIを含む産業を育成して新たな道を切り開くべきだと強調した。

これに対して、「改革新党」のイ・ジュンソク(李俊錫)候補は「その公約を実現するには約12兆ウォンの予算が必要となる可能性があり、それは過度に楽観的かもしれない」と指摘した。これに対し、イ・ジェミョン氏は「イ・ジュンソク氏の批判こそがむしろ誇張された悲観論だ」と反論したうえ「費用の問題は政府の母体ファンドを通じて民間資本を誘致することで解決する」と説明した。

イ・ジェミョン氏のAI公約は、いわゆる「主権型AI」戦略として要約される。政府と民間が共同で国家を代表する大規模言語モデル(LLM)を開発し、運用は民間に任せるという立場だ。

この過程でイ・ジュンソク氏が「AI開発を政府が入札で任せるのか、それとも民間が先に作ったものを選ぶのか」と問うと、イ・ジェミョン氏は「政府がR&D予算を支援し、民間と共同で開発する。だが、運用は民間が担うことができる」と答えた。さらに「一つの単一モデルを作っていく方向が正しい」とも補足した。

対話をするイ・ジェミョン候補(左)とイ・ジュンソク候補(c)NEWSIS

◇エネルギー政策と直結

AIインフラの確保問題はエネルギー政策と直結しており、論争が拡大した。

「国民の力」のキム・ムンス(金文洙)候補は「世界3大AI強国になるには原発なしでは不可能だ」と述べ、「イ・ジェミョン氏が脱原発政策を取りながらAIを育成しようとするのは矛盾だ」と指摘した。

これに対し、イ・ジェミョン氏は「原発と再生可能エネルギーのエネルギーミックスが必要だ」としたうえ「これは完全な脱原発ではない」と明言した。さらに「廃棄物や事故のリスクなど、安全性の問題があるため原発は最小化する必要があり、安全な小型モジュール炉(SMR)の技術開発を並行して進めなければならない」と説明した。

キム・ムンス氏は、原発は風力の8分の1、太陽光の6分の1のコストで済むとして、原発が安価かつ安全なエネルギー源である点を強調した。イ・ジュンソク氏もまた、AI産業に必要な電力の確保という観点から原発がはるかに効率的であるとし、イ・ジェミョン氏が環境論者の主張に過度に影響を受けていると批判した。

研究開発(R&D)産業の競争力や労働時間の問題も争点となった。キム・ムンス氏は「イ・ジェミョン候補は当初、半導体特別法に反対し、週52時間制の例外すら認めなかった。これは候補が掲げる他の公約と矛盾する」と指摘した。これに対し、イ・ジェミョン氏は「週当たりの総労働時間を増やさずに手当だけを保障する方式は、既存の制度よりも実効性に欠ける」と反論した。

◇「AI」はインフラ、エネルギー、労働問題の複合的議題

この日の討論は、各候補の技術・産業に対する理解度を浮き彫りにすると同時に、AIというテーマがインフラ、エネルギー、労働問題にまで及ぶ複合的な議題であることを示す場となった。

イ・ジュンソク氏は「AIの時代を語るには、政策のディテールや費用の試算、実行主体を正しく理解する必要がある。ただ予算を注ぎ込むだけでAI強国になれるはずがないのは明らかだ」と強調した。

業界では、与野党すべての大統領選候補がAIを主要な政策議題として扱った点を、まずは前向きなシグナルと受け止めている。特に今回の討論会が単なるキーワードの水準にとどまらず、開発方式、データ基盤、電力インフラなど、具体的な政策項目を中心に議論された点については、一定の真剣なアプローチと評価されている。

ただ、候補者たちの発言が政策構想の段階を越えられず、実行体制や主体の設定に関してはいまだに不透明である点については疑問の声も上がっている。大規模な投資や方向性についてはある程度の共感が見られるものの、それをどのように実現するかについての説明が不十分だという反応だ。

ChatGPT(c)KOREA WAVE

◇「AI重視は前向きだが…」業界が注視する実行力

ある業界関係者は「まず、すべての候補がAIを主要アジェンダとして関心を示した点は非常に前向きなシグナルだ」としつつも、「予算の調達方法や、政府による開発か民間への委託かなど、具体的な構造がどのように設定されるのかが気になる」と述べた。

方向性と同じくらい重要なのは、実行体制の信頼性だというのが業界の考えである。大きな関心も、現実的な設計がなければ単なる宣言にとどまる可能性があるという懸念から、次の討論会や公式な公約発表の場で政策の詳細案が提示されるかどうかが注目されている。

別の業界関係者は「討論会でAIが主要な議題として深く扱われたのは、産業界の立場からすると意味のある場面だった。具体的な実行方式は、今後の実務的な計画を見守る必要があるだろう」と語った。

(c)KOREA WAVE

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