2026 年 5月 3日 (日)
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韓国・熟練工ノウハウをAI学習データへ…熟練データの権利と補償が焦点

ボストン・ダイナミクスが制作した二足歩行ロボット「アトラス」=現代自動車提供(c)news1

韓国政府が、製造業の熟練労働者が持つ「暗黙知」、つまり数十年にわたり蓄積してきたノウハウを人工知能(AI)の学習データに転換する事業を進める中、雇用縮小への懸念をめぐって労働界の反発が広がっている。生産性向上と技術保存という政策趣旨にもかかわらず、技術代替に伴う雇用減少の可能性に加え、熟練データの所有権や利益配分の基準が不明確だとの指摘が出ている。

特に、長年積み上げられた経験と直感がAIモデルへ変換され、生産性向上につながる場合、その成果を誰に、どのように分けるのかについて社会的基準がない点が核心的な争点として浮上している。「ノウハウのデータ化」が雇用構造の再編につながりかねないとの懸念も重なり、AI時代の労働対立に新たな前線が形成されつつある。

産業通商省によると、政府は6月の開始を目標に「製造暗黙知基盤AIモデル開発」事業を進めており、これに向けた圏域別の巡回説明会を開いている。

この事業の核心は、熟練労働者の経験と感覚に基づく非定型知識をデータに変換し、AIに学習させることだ。労働者の協力を得て、インタビュー、作業映像、センサーデータなどを収集、分析し、生産工程、設備運用、品質管理などに活用する構想である。

「暗黙知」は、個人の経験、直感、ノウハウが結びついた知識で、言葉や文書で体系化しにくい特性を持つ。例えば、熟練工が普段と異なる機械音や微細な振動だけで設備異常を事前に察知したり、作業効率を高めるこつを身につけたりすることが代表例だ。

こうした知識は製造業全般に蓄積されているが、温度や湿度の変化、製品ごとのばらつきなど現場の細かな変数まで反映しにくく、標準化されないまま徒弟式教育や非公式な伝承に頼ってきた。

政府はこうした暗黙知をAIへ転換し、高齢化による技術断絶を防ぎ、生産性を高めるという立場だ。韓国経済研究院によると、製造業で50代以上の労働者が占める割合は2010年の15.7%から2020年には30.1%へ大きく増えた。熟練人材の退職が本格化すれば、技術の蓄積そのものが途切れかねないとの懸念が背景にある。

キム・ジョングァン(金正官)産業通商資源相は「暗黙知AI事業は選択の問題ではなく、産業競争力を維持するための必須課題だ」とし、「高齢化と人材忌避が続けば、産業基盤そのものが弱まる可能性がある」と強調した。

業界も必要性は認めている。現在のAIは主に文書化されたデータを基に学習しており、音、振動、温度、外形変化など物理世界の微細な信号を解釈するには限界があるとの指摘が多い。世界的なAI研究者のヤン・ルカン・ニューヨーク大学教授も「AIは物理世界の理解という面でまだ制約があり、テキスト中心の学習だけでは人間水準に到達しにくい」と述べたことがある。

ただ、労働界は熟練のデータ化がもたらす構造的変化への備えが不足していると反発している。特に、労働者の経験と技術がAIに転換される場合、その成果物の権利と収益配分をめぐる基準がないことや、雇用縮小の可能性を問題視している。

韓国労総は「数十年にわたり蓄積された熟練がAIモデルへ転換され、企業の生産性向上につながる場合、その利益をどう分けるのかについて社会的合意がない」とし、「データを提供した労働者の権利保障と補償体系が先に整えられるべきだ」と主張した。

さらに「AI導入は雇用縮小、職務再編、熟練価値の低下など構造的変化を伴わざるを得ない」とし、「雇用への影響に関する実質的な対策と利益共有の仕組みなしに事業を進めることは、正当性を確保しにくい」と強調した。

(c)news1

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