2024 年 5月 17日 (金)
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[KWレポート] 韓国社会を変えた法廷 (6)

トランスジェンダーの権利 (下)

「トランスジェンダーはあなたのそばにいる」というプラカードを掲げる関係者©news1

短期間で急激な発展を遂げた韓国社会には、歴史の転換点で示された数多くの判決があります。そのうちの20件を通して、韓国社会の「時代精神」がどう変化を遂げたのか探ってみました。(シリーズ6/7)

◇「人権を広げる糸口をつかんだ」

「最高裁判決は、相当に意味のある判決だ」。こう振り返るのは、キム・ジンファさん(71)=仮名=の弁護を引き受けた弁護士事務所に所属するイ・テファ氏だ。イ・テファ氏は、当時の社会の雰囲気に後押しされた結果だと感じている。

このころ、釜山地裁のある判事が、性転換者の性別訂正と関連した論文を発表していた。イ・テファ氏は「社会の雰囲気も熟していた」といい、「最高裁は性少数者に配慮すべきだという意思を明確に表現してくれた。性転換者の人権を広げる糸口をつかんだと思う」と評価する。

当時の主審最高裁判事、キム・ジヒョン氏(前最高裁判事)は退任後、あるメディアとのインタビューで「こういうケースこそ、裁判官が役割を果たすべき事案」と指摘したうえ「人間と言う存在に対する理解を広げた」と語っている。

最高裁も当時の判決について、解説集に次のように記している。

「性転換者の憲法上の基本権と、戸籍法の合憲的法律解釈などを通じ、性転換者の意味を明らかにし、戸籍訂正許可を認めた最初の決定」「性転換者の戸籍訂正に関する立法的措置が進んでいない現時点で、性転換者に対する唯一の救済方法」

(AFPBBNews)©news1

◇性器整形手術がなくても…

一方で、性的少数者団体や進歩系の市民団体などは最高裁の判断について「過度な性器中心主義的な認識を盛り込んだ」と批判している。戸籍訂正許可の要件として、性転換手術を受けたうえ、反対の性の外部性器を持たせるよう求めることは問題だ、と指摘している。

反対の性の外部性器を必ず持たせる、という最高裁の基準が批判された理由は、外科的手術が複雑で、価格も高いためだった。特に女性から男性に性転換をした「FTM」(Female To Male)の場合、手術がより複雑である。

性転換者の実態を分析した論文や報告書はほとんど見当たらない。

性転換者人権実態調査企画団が2006年に発刊した実態調査によれば、男性から女性に性転換をしたMTF(Male To Female)の場合、78%は手術経験があったが、FTMの手術比率は34%に過ぎなかった。

精巣と卵巣除去手術の平均費用は333万ウォン、性器形成手術の平均費用は1390万ウォンだった。16年前の物価水準を勘案すれば、決して少なくない額だ。これとは別に、性転換者が手術を安全だと感じていないという問題もあった。

こうしたなか、ソウル西部地裁が2013年、最高裁判決より一歩踏み込んだ判決が下された。男性性器整形手術を受けていないトランスジェンダー男性に対する性別訂正を、裁判所が初めて許可したのだ。

続いて、清州地方裁判所永同支院が2017年、女性性器手術を受けていないトランスジェンダー女性に性別訂正を許可する初めての判決を下した。

当時、裁判所は「女性としての性別アイデンティティを確認するうえで、性器形成手術は必須ではない」としたうえ「手術を受けていない性転換者は、事故や病気で生殖器を失った場合と変わらない」と指摘した。

昨年にも、水原家庭裁判所で意味のある判決が下された。子宮摘出手術のように、生殖能力を非可逆的に取らなくても、ホルモン療法だけで性別訂正が可能だ――という初めての判断だった。

1審は子宮や卵巣の摘出手術を受けなかったという理由で、性別訂正申請を棄却した。

だが、2審は「生殖能力の非可逆的な除去を要求することは、性的アイデンティティが認められるために身体の完全性を損傷するよう強制することだ」と指摘したうえで「自己決定権と人格権、身体を毀損されない権利を過度に制約する結果になる」と警告した。

◇「普遍的基準はない」

最高裁の判決以後、各裁判所では一歩進んだ判決が一つ二つと出ており、最高裁の例規も次第に肯定的な方向に変わっている。

最高裁が性別訂正許可基準を設けるため2006年に作った事務指針は、その後、8回改正された。「性別訂正の許可基準」の条項は2011年に「調査事項」に変わり、2020年には「参考事項」に変わった。

必ず満たさなければならない基準から「参考にできる事項」に変わったわけだ。また、成人性転換者が性別訂正を申請する場合、必ず提出しなければならなかった「両親の同意書」も2019年の裁判所の決定以後、例規から消えた。

しかし、まだ解決されなければならない問題が残っている。「行動する性的少数者人権連帯」(人権連帯)は「一部の裁判所で変化はあるが、まだ普遍的な基準にはなっていない。依然として多くの裁判所では、最高裁の例規に基づいて手術を受けることを要求している。同じ例規についても裁判長が誰かによって異なる結果が出ている」と指摘する。

人権連帯をはじめとする性的少数者の人権団体は昨年末、「最高裁の例規にあるトランスジェンダーの性別訂正に向けた手術要件を廃止せよ」と、国家人権委員会に陳情した経緯がある。

(つづく)

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