2024 年 5月 2日 (木)
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[KWレポート] 韓国人なのに韓国映画が楽しめない (1)

推理するのに疲れた…

当たり前と思っていた韓国映画から音が消えた時、理解を助けるものは何もなかった。主人公マ・ソクドの固い表情に106分間、耐えるしかなかった(写真=「犯罪都市2」ポスター)©MONEYTODAY

日本で韓国映画を視聴する際、日本語の字幕がストーリーへの理解を助けてくれます。一方、韓国で上映される場合、大半で字幕がなく、同国の聴覚障害者が「韓流」を楽しめないという現実があるようです。MONEYTODAY記者が体験ルポにまとめました。(シリーズ1/3)

記者は映画「犯罪都市2」を見た。

劇中の刑事であるマ・ソクト(マ・ドンソク)が、パク・チファン扮するチャン・イスに会う場面が出てきた。チャン・イスは「犯罪都市1」でも面白い人物だったので、笑える会話が交わされるだろうと思った。

案の定、マ・ソクトがチャン・イスに何か言うと、近くの観客たちが体を揺すって笑っている。前のカップルは肩を叩き合っての大騒ぎだった。

だが、私は笑えなかった。

笑わないのは劇場で私だけだった。

理由は簡単だ。マ・ソクトが何を言ったのか、わからなかったからだ。

すべてのセリフ、BGM、効果音がつぶやき程度に聞こえた。イヤホンを両耳につけて音楽を流し、騒音を遮断するヘッドホンで耳を塞いでいたからだ。他の観客の迷惑にならないように、外にはイヤホンの音が漏れないことを何度も確認した。

――こんな体験をしていたのだった。

「パラサイト~半地下の家族」公開当時、視・聴覚障害者も見られるようにハングル字幕と画面解説を入れた「カチボム」映画上映会案内。ソウルでの上映はわずか4回にとどまった©MONEYTODAY

聴覚障害者が韓国映画を見るとどんな気持ちになるのか、取材しなければならなかった。

韓国人が、韓国映画を見られない――こう言ったのは、聴覚障害者のキム・ソヒさんだった。

2019年5月、映画「パラサイト~半地下の家族」がカンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞し、全国民が喜んだ時だった。これを見た観客が1000万人を超えた。

当時、キム・ソヒさんもこの映画を見たかったが、見られなかった――韓国映画だったからだ。

つまり韓国映画はセリフの大半が韓国語であるため、ハングルの字幕がない。聴覚障害者であるキム・ソヒさんは、画面の情報だけで物語を知る必要があった。蚊帳の外という状況だった。

「周囲では映画のレビューが語られますが、その中で私ができる話や、共感したことは、あまりにも少なかったのです」

聴覚障害者も映画を楽しめるのは、「カチボム」が手掛けるハングル字幕作品があった。しかし上映回数や映画館が少なすぎる。

6月1カ月に限り、それも24~28日しか鑑賞することができない。しかもソウルで見られる映画館は九老(クロ)、江邊(カンビョン)、蘆原(ノウォン)、ピカデリーCGVだけ。上映回数も全国で計40回余りに過ぎなかった。

すべてが平日、しかも午後2~7時だけだった。

キム・ソヒさんは会社員だ。平日午後に時間を作れず、仕事が終わってからでなければ映画鑑賞はできない。九老、江邊は職場から1時間以上かかり、映画の冒頭部分は見ることができない。結局、「パラサイト~半地下の家族」を映画館で楽しむことはできなかった。

◇音を遮断して映画を見てみる

声を聞けずに韓国映画を見るというのはどういうことだろうか。

記者が初めて体験してみることにした。その経験を知らせれば、少しでも変わるかと思ったからだ。観客数1000万人を超えた「犯罪都市2」を見ることにして、6月22日午後の前売券を買った。

音が聞こえず字幕もなかった©MONEYTODAY

まずは映画から出てくる音をどのように遮断するか苦心した。

高性能の耳栓(遮音32デシベル)を装着して映画館に入った。だが、音量が大きく、耳栓を突き破って音が入ってきた。仕方なくイヤホンをつけて音楽を流し、その上にヘッドホンをかぶせることにした。するとセリフもBGMも、つぶやきのように聞こえ、ほとんど内容がわからなくなった。

使用した耳栓とヘッドホン©MONEYTODAY

映画を楽しむというより、1人で推理するという感覚になった。いまの場面はいったいどんな状況だろうか――と考えているうちに場面が変わってしまう。

ソン・ソック扮するカン・ヘサンがなぜ他のメンバーを殺すのか。

カン・ヘサンを殺しに来た連中は誰なのか。

マ・ソクトはカン・ヘサンを投げ飛ばしながら何と言ったのか。

――こういった状況がまったくわからなかったのだ。

聞き取れたのはマ・ソクトの「おい、こっち来い」と、唯一、ハングル字幕がつけられたベトナム警察のセリフだけだった。しかも、その日に限って映画館がとりわけ暗く感じられた。

逆に、並んで座った観客たちと同じように理解できたのは、セリフのないアクションシーンだけ。殴り合い、包丁を振り回すシーンは映画全体の中で最もわかりやすかった。

俳優の口の形を見て推測しようとしたが、読み取れるものはほとんどなかった。

自分が楽しいと思った時、楽しめなかった誰かがいるとは想像できなかった。音のない韓国映画を見る体験をするまでは(写真=YouTube)©MONEYTODAY

これは私にとってアクション映画ではなく、「推理映画」にほかならなかった。上映が始まって50分も過ぎると、目が痛くなり、肩が凝る感じがしてきた。

リラックスできず、目を見開いて、集中しながら見ていたせいだった。

(つづく)

©MONEYTODAY

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