2024 年 12月 28日 (土)
ホーム経済OTT作家イ・ミンジン氏、記者懇談会やり取り (上)

作家イ・ミンジン氏、記者懇談会やり取り (上)

記者懇談会に臨むイ・ミンジン氏©NEWSIS

――再出版の感想を。

イ・ミンジン氏 まず今回、「パチンコ」を新たな翻訳で出版することができ、感謝している。基本的に私は、韓国系日本人が経験してきた話を、もっと世界に広めなければならないと思っている。こうした話を、より多くの人に伝えることができて大変嬉しく、ありがたい。

――小説「パチンコ」には、さまざまな情緒が込められ、ヒューマニズムといえる。あなたのヒューマニズムは他とは、どのように異なるのか。

イ・ミンジン氏 「パチンコ」の人気に対する質問だと心得る。その質問に答えが出せると思う。私の本ではさまざまな人間模様を扱っている。世界中の人々がそれを読んだ時、韓国人が心配する部分を、その他の国の人々も共感できるのであれば、コンセンサスが形成されるのではないか。

――作品が出版されて時間がたつ。新型コロナウイルス感染などによって新たなヘイトも生まれている。あなたの立場からみて、どんな点が変化したように思えるか。

イ・ミンジン氏 私はじっくり時間をかけて作品を書く作家だ。記者のように取材したり数百人の人にインタビューしたりして1冊の本を書くこともある。人種差別、階級差別、ヘイトなどが起きるのを見て、こうしたことが人間の本性の一部分とみなすこともできるように思える。ただ、他者を抑圧することは問題だ。

◇脱北者問題「胸が痛く、難しい質問」

――「パチンコ」は在日同胞を扱っている。在日同胞の北朝鮮への帰還事業という歴史的出来事についてはどう考えるか。

イ・ミンジン氏 作品で「キム・ジャンホ」というキャラクターが登場する。主人公「ハンス」のために働く人であり、彼も北朝鮮に帰ることが愛国的なことだと考え、北朝鮮に帰還するキャラクターだ。日本で暮らしていた韓国人が騙されて北朝鮮に送還されることも多い。毎日のように、ご飯やアパートをあげる、と言って連れていくが、いざ行ってみると良くないことが起こることもある。「キム・ジャンホ」を通じて、こうした部分も取り入れようとした。

――北朝鮮の脱北者の話にも関心があるのか。

イ・ミンジン氏 実は、これは胸が痛く、難しい質問だ。私は韓国だけでなくドイツ、米国、オーストラリア、日本など、世界の随所にいる韓国人に関心がある。私たちはもちろん同じ韓国人ではあるが、韓国人同士でも歴史を振り返ってみると、互いに憎しみあった時期もあるのではないか。韓国と北朝鮮も同じ民族ではあるが、現在も戦争が終わってない。同じ人種や民族の、同じ国の人間だが、北朝鮮と韓国がそうやって互いに異なる態度をとることに対して、胸が痛く、良い解決策を出さなければならない問題だと思う。

ドラマ「パチンコ」(AppleTV+提供)©news1

◇「日本におけるいじめ」の話

イ・ミンジン氏はソウル生まれ。1976年、7歳の時、家族とともに米ニューヨーク・クイーンズに移住した。イェール大で歴史を、ジョージタウン大ローセンターで法律を、それぞれ学んだ。2007~11年には東京に滞在し、「パチンコ」を研究・執筆した。

――この小説を書き始める時、韓国系日本人の少年の話を思い出したとか。

イ・ミンジン氏 19歳、大学生のころ、学校の授業に出たくなくて、ある特別授業を聞きに行った。その時、韓国系日本人の少年の話を知った。

日本で活動する白人宣教師が在日同胞に向けて宣教していて、信者の中に韓国系日本人の少年が1人いたそうだ。その少年がある日、マンションの屋上から飛び降り自殺した。その子の所持品を探していると、中学校の卒業アルバムに「お前らの国へ帰れ、お前が大嫌い、キムチ臭い、死ね」などの文字が書かれていた。学校でいじめられていたのだ。

私も母親であり、息子がいる。子供を13歳で失うなんて想像できない。19歳だった当時、私はとても驚き、心が痛み、また腹が立った。その話が頭の中にとても長い間残り、「パチンコ」という小説が生まれた。

◇弁護士から作家へ

――作家になったのは?

イ・ミンジン氏 最初から「作家になろう」と考えていたわけではない。高校生のころから文を書くことはあったが、私は韓国系米国人であり、当時は、韓国系米国人女性が作家になる、小説を書く、ということはあり得ないと思われていた。だからロースクールに行き、弁護士になった。

ところがその後、深刻な肝疾患にかかり、20~30代で肝臓がんになるかもしれない、と医者から言われた。それまで前だけを見て生きていたが、「違う生き方をしなくては」という気持ちになった。残された時間に、作家として意味のある仕事をしようと考え、この道を選んだ。肝疾患は既に治癒している。

――「パチンコ」の初稿を、日本に訪問した後に廃棄して、すべて書き直したという話がある。

イ・ミンジン氏 当初、「Motherland(マザーランド)」というタイトルの本を書き上げた。しかしあまりにも出来が悪く、面白くなかった。夫も面白くないと言ったほど。読者の時間を無駄にしたくないと思い、そこに、一つのチャプターだけに「パチンコ」に収録することにした。当時、主人公は「ソロモン」だった。しかし今、考えてみると、彼はこうした長編の主人公になるほどの人物ではなかった。良い人ではあるが、生き方があまりにもラクに思えた。だから、もう一度書き直した。最初に書いた原稿には、今の主人公「ソンジャ」はいなかった。

(下に続く)

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