2024 年 5月 3日 (金)
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[KWレポート] 韓国“リセット” (5)

北朝鮮に「大胆な計画」

8月15日、ソウル・龍山大統領室の芝生広場で開かれた光復節の式典で祝辞を述べるユン大統領©NEWSIS

韓国でユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が誕生して以後、内政や外交、南北関係で新たな動きが始まっています。最新の状況を交え、まとめてみました。(シリーズ5/8)

◇非核化段階に合わせた経済・民生改善

「北朝鮮が核開発を中断し、実質的な非核化に切り換えるならば、その段階に合わせて北朝鮮の経済と民生を画期的に改善できるよう支援する」

ユン大統領は8月15日、光復節(日本の植民地支配からの独立記念日)の祝辞で、対北朝鮮ロードマップを持ち出した。いわゆる「大胆な構想」だ。

北朝鮮が非核化の意思を示す場合、経済的支援に突入し、その後、実質的な非核化措置を履行すれば、莫大な経済的支援だけでなく、政治・軍事的安全保障策を段階的に提示するというのが骨子だ。

ユン大統領の8・15慶祝演説では6つの経済支援策だけが発表された。

ただ、大統領室は対北朝鮮制裁の部分免除のための協議の可能性まで開き、積極的な対北朝鮮メッセージを投げかけた。

経済支援に関しては▽大規模食糧供給プログラム▽発電と送配電インフラ支援▽国際交易のための港湾と空港の現代化▽農業生産性向上のための技術支援プログラム▽病院と医療インフラの現代化▽国際投資・金融――を例に挙げた。

◇「非核・開放・3000」連想

一見、イ・ミョンバク(李明博)政権の対北朝鮮政策である「非核・開放・3000」を連想させる。だが、ユン政権は経済協力策のほか、政治・軍事部門の協力ロードマップも包括する総合的計画である点を強調している。

これに先立ち、クォン・ヨンセ(権寧世)統一相は先月、国会外交・国防・統一分野の対政府質問に出席し、「大胆な構想」を「北朝鮮が核開発の口実にしている安全保障への憂慮も議論する点が、過去の対北朝鮮政策と最も大きな違いだ」と言及した。

クォン氏は以下の点を強調する。

過去の構想は、おおむね非核化と経済的な支援を交換する形だった。だが「大胆な構想」は、経済的な支援のほか、北朝鮮が懸念する安全保障分野も考慮して、軍事・政治的な分野まで論議しようというものだ。北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は施政演説で核戦力法制化について言及しており、北朝鮮の核政策の変化は、政治・軍事的な状況の変化でのみ可能だとした。「大胆な構想」はこうした政治・軍事的な状況の変化まで論議しようというもの――。

また、クォン氏は、イ・ミョンバク政権の「非核・開放・3000」と比較した。

「以前は経済的な支援措置も非核化と1対1で交換する構造だった。『大胆な構想』は北朝鮮の非核化意思が確実ならば、初期段階で先制的に民生と人道的措置を果敢に取るということ。そこに違いがある」

統一省は下半期に、政治・軍事的措置などを含む「大胆な構想」だけでなく、統一・対北朝鮮政策を網羅した総合的な資料を発表する方針だ。

9月8日、最高人民会議の施政演説で「絶対に核を放棄しない」と宣言するキム・ジョンウン総書記(写真=労働新聞キャプチャー)©NEWSIS

◇「核抑止・断念・対話」の3D基調

大胆な構想を実行するための基本要素としては、核抑止(Deterrence)、核開発の断念(dissuasion)、対話(Dialogue)といった3D基調を掲げた。

米国の、いわゆる「核の傘」を含む「拡大抑止」の実行力を高めると同時に、韓国の3軸体系を強化することにある。3軸体系は▽北朝鮮のミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃するキルチェーン▽ミサイルを迎撃する韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)▽北朝鮮から攻撃された場合に指導部などに報復攻撃をする大量反撃報復(KMPR)――を指す。

北朝鮮の核攻撃の試みを「抑止」し、国連安保理制裁の徹底した履行を通じて北朝鮮の核を「断念」させる努力を続ける。そんななかで「大胆な構想」を通じて「対話」の扉を開いたという説明になっている。

だが、北朝鮮側はユン大統領就任100日目の17日、巡航ミサイル2発を発射したのに続き、キム総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)朝鮮労働党副部長が談話を通じて、韓国側の提案に拒否の意思を明確にした。

キム・ヨジョン氏は談話で「(大胆な構想が)新しいものではなく、約10年前にイ・ミョンバク逆徒が持ち出し、同族対決の産物として捨てられた『非核・開放・3000』のコピーに過ぎない」と批判した。

北朝鮮が核を放棄して開放の道を選べば、国際社会とともに5大分野にわたる包括的支援を通じて、10年内に北朝鮮の1人当り国民所得を3000ドルになるよう支援する――という概念だけを見れば、「大胆な構想」と似ているのは事実だ。

朝鮮半島(北朝鮮)の非核化を目標に、和解・協力、信頼構築、平和体制構築、経済協力、人道的支援などを推進することは、保守政権であれ進歩政権であれ、共通して提示する内容でもある。

ただ、ユン政権は、最終的に北朝鮮が核を放棄できる環境を作り、自ら非核化の道に進むようにする。そんな北朝鮮の変化をけん引する、という点をより重視している。

統一省当局者は「政府は、北朝鮮の非核化対話への復帰決定を受動的に待つよりは、北朝鮮の脅威と挑発に対しては強く、断固として抑制し、制裁と圧迫を通じて北朝鮮が核開発を断念するようにし、対話と外交を通じて北朝鮮をけん引するという立体的アプローチを堅固に維持することが重要だと見ている。むしろ、今の朝鮮半島状況を勘案して、大統領が提案した大胆な構想の有効性はさらに高まった」と自評している。

(つづく)

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