「勝者は金融システムの競争力で決まる」
韓国のモバイル決済アプリ最大手のカカオペイと、インターネット金融のカカオバンク。会話アプリのカカオ(kakao)の「フィンテック兄弟」と呼ばれる両社ですが、株式上場前には激しい神経戦を繰り広げました。その舞台裏に迫りました。(シリーズ3/計4回)
上半期の売上と営業利益をみると、カカオバンクはそれぞれ4785億ウォン(約461億円)と1338億ウォン(約129億円)、カカオペイは2163億ウォン(約208億円)と26億ウォン(約2億5100万円)だ。両社の上場により時価総額競争に火がついだ。
しのぎを削るカカオペイのリュ・ヨンジュン社長と、カカオバンクのユン・ホヨン社長。関連業界は「金融システムの競争力」により勝者が決まると見る。カカオペイはモバイル簡易決済サービスで、カカオバンクはモバイルバンキングで、それぞれ事業を始めたが、いずれも目指すところは総合金融システムだ。
当面の事業モデルが異なるが、マイデータ(スマーフォンによる歩行記録や健康情報など、特定の個人が識別されるかを問わない情報の総称)の時代が開かれれば、資産管理という領域で二つの金融業がぶつかる。
さらに、韓国金融委員会のコ・スンボム(高承範)委員長が最近、都市銀行頭取との懇談会で、金融機関にスーパーアプリ(電話やチャット、音楽、ゲームなど多様な機能を搭載する統合的アプリ)の使用を認めると述べた。これは近い将来、カカオバンクの銀行アプリも、カカオペイのように、スーパーアプリへと進む道が開かれたことを意味する。
◇「カカオバンクよりカカオペイ」
グループ系列会社で同じ金融業を営む2社が、数カ月の差で上場するという例はほとんどない。証券業界では、カカオペイはカカオバンクより証券市場入りの時期は不利かも知れないが、今後の成長の可能性は、一枚上かも知れないという評価が出ている。
カカオペイは当初、8月12日の上場を予定していた。8月5日にデビューしたカカオバンクとは、わずか1週間違いだった。だが、日程が狂ってしまった。金融監督院による訂正申告書の提出要求、公募価格の調整、金融当局の規制問題などが次々に浮上し、3カ月近く見送られた。
カカオバンクはタイミングが良かった。そのころまで、国内の証券市場はそれなりに熱かった。カカオバンク上場日の総合株価指数(KOSPI)の終値は3276.13。6月に3300でピークとなった後、3200まで下落していた時期だった。上場直後、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)への早期編入に成功し、外国からの資金が殺到した。その後、KOSPI200にも早期編入され、機関投資家まで買いに乗り出した。
上昇の勢いが激しかっただけに、高評価をめぐる議論もあった。カカオバンクの時価総額は当時、40兆ウォン(約3兆8600億円)を大きく超えた。ファンドマネジャーの間では「やむを得ずカカオバンクを買う」という言葉があるほど。カカオバンクの価格が「高い」というのは知っているが、我も我もとなっている状況で、買わざるを得ないという状況だった。
◇中長期的な魅力は手数料ベースのビジネスモデル
一方、カカオペイのタイミングは良くなかった。
まず、KOSPIは3000ポイント前後で横ばい。上半期にブームを見せた公募株市場も、業種別の差別化が鮮明になっている。
ある公募株のファンドマネジャーはカカオペイの上場前、「12兆ウォン(約1兆1600億円)より低く見るアナリストもいる。全般的にカカオバンクのように強くは見ていない感じだ。上場初日に“特別賞”(新規上場株が急上昇し、公募価格の2倍まで初値を付ける状況)まで行くのは難しいと思う」と予想していた。
だが、長期的に見れば、カカオペイへの投資の魅力がさらに高まる可能性がある――という評価は少なくない。
銀行業の特性上、自己資本の規模や規制などが絡んでいるカカオバンクより、手数料を基盤に情報通信技術を駆使した金融商品を扱うカカオペイの方が柔軟で、多様なビジネスモデルが可能なためだ。
イーベスト投資証券のソン・ジョンファ研究員は「カカオペイが究極的に集中する核心事業は金融サービス業だ。それなら、取引額に対して手数料が圧倒的に高いうえ、取引額まで高い成長を続け、営業収益に占める比重が拡大している」と説明した。
公募株ファンドを専門とする「アセットワン資産運用」のチェ・イルグ副社長は「銀行は与信を基盤とした資産規模の争いであるため、資本金も一定規模以上の大きさが必要だ。銀行業の特性上、規制産業の影響を受ける。カカオペイの場合は手数料基盤の収益モデルであるだけにNIM(純利子マージン)事業とは違う」と説明した。
(つづく)