需要側中心のジャーナリズム
韓国で、1990年代生まれの若者を明快に分析した「Kを考える」の著者で作家のイム・ミョンムク氏(28)が注目されています。「20代の論客」として注目を集めるイム氏がMONEYTODAYとのインタビューで語った話をまとめました。(最終回)
◇摩擦を増幅させるメディア環境
「エリートが文化を統制していた時代のもどかしさから、明らかに解放された。今、私たちはとても面白い世の中で無尽蔵なコンテンツを楽しんで生きている。しかし、同時に安定感、秩序、予測可能性、社会統合の可能性が崩れ始めた」
「需要側中心のジャーナリズムによって、人々が望むことをそのまま見せる方向に進んでいる。それなら今の時代、需要側が望む情報とは何か。(ファンに基づいた)政治的な不十分さ、非難・嫌悪のような否定的な感情――などを望んでいる。そのようなことに応じるメディアだけが生き残ることになれば、摩擦が激しくならざるをえない。(韓国の進歩派ジャーナリスト)キム・オジュン氏や(韓国で政治やゴシップネタを配信している)縦横研究所などが、このような文脈にある」
◇共同体を縛る民族主義も退潮
「民族主義は共同体の特性を共有する。市民間の連帯、文化的接触窓口としての役割を果たした。しかし、韓国青年層の民族主義は、このような機能を今やほとんど失った。公的価値アイデンティティの基盤が崩れた」
「今の民族主義は非常に防御的だ。韓国の文化コンテンツ(韓服など)を守らなければならないという文脈で、集団行動が起きる水準だ。そこに没頭すること自体が、なんらかの意味や推進力、行動力を作る。これは国家のための民族主義と違うようだ。民族主義が退潮したにもかかわらず、退潮しなかった現象である」
◇他の国で答えを見つけるのは難しい
「かつては模範となる先進国を私たちがベンチマークしながら答えを得ることができた。私たちが経験している問題は、すでに他の国で解決されたことだから、私たちがそれに従えばいいというように心理的な安定も得ることができた」
「ところが、今はいくら見ても他の所より韓国の方が混乱している。モデルを失ってしまった。いつも追うことばかり考えてきたが、その対象を失ったのだ。米国で、欧州で、答えが出てくるわけではないのに、どうすればいいのだろう。このような点から来る混乱もある」
◇持続する共同体の危機
「若年層でのジェンダー摩擦、これは人類史上初の事態だ。もちろん『暴力』の強度は以前の方がはるかに高かっただろうが、今このような水準の『社会的摩擦』はなかったと考える」
「もう一つの摩擦も出てくるだろう。アイデンティティと文化をめぐる闘争が今後も続きそうだ。その戦線がどのように作られるかは、具体的な文脈によって変わるだろう」
「逆説的に、今のこのすごいコンテンツ帝国は、1990年代生まれが体験している心理的混乱と危機が商業的に連結され、つくられたものだ。このようなことがコンテンツ領域では引き続きエンジンとなるだろう。もちろん当分の間、韓国のコンテンツ覇権もさらに強化されるだろう。しかし、同時に政治・社会的には危機が生み出される可能性もある」
(おわり)
「20代論客が語る2022大韓民国」はMONEYTODAYのチェ・ギョンミン、ファン・イェリムの両記者が取材しました。
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