尿素水に揺らいだ韓国経済
新型コロナウイルスの感染拡大とロシアによるウクライナ侵攻などにより、平和な国際分業体制が崩れ「グローバルサプライチェーンの危機」が深刻化しています。韓国の事情を取材してみました。(シリーズ3/9)
新型コロナウイルスによる感染パンデミック以降、需給不均衡と米中覇権争い、ロシアによるウクライナ侵攻などに伴うグローバルサプライチェーン危機が、韓国経済を揺さぶっている。
政府は特定国に対する依存度を下げ、重要な鉱物などに対する安定的な供給網構築を推進しているが、短期間で解決するには程遠いようだ。
◇尿素水からセメントまで
昨年11月に起きた、中国の肥料品目輸出統制措置に伴う「尿素水品薄状態」は、サプライチェーンの支障に伴う韓国経済の脆弱性を示す象徴的な場面だったと指摘されている。
当時、トラックやバスなどのディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物(NOx)の浄化に必要な尿素水の品薄現象により、物流や宅配、公共交通機関、生活ゴミ処理、建設現場など国民経済全般に波紋が広がった。
今年もサプライチェーン危機は続いている。セメント原料である有煙炭確保が難しくなったことにより、セメント価格が暴騰し、建設現場ではいわゆる「シャットダウン」危機が高まっている。
セメント業界は昨年7月、セメント価格を1トン当たり7万5000ウォンから7万8800ウォンへと5.1%引き上げた。だが、今年初めにも約15%引き上げ、さらに今月も15%引き上げた。この結果1トン当たり10万ウォンを超えた。
セメント価格が1年2カ月で35%ほど急騰したが、中小生コン業界は値上げを拒否。工場シャットダウンまで辞さないため、建設現場も緊張が高まっている状態だ。
国際的なエネルギー供給網の危機は、エネルギー公企業の大規模な赤字だけでなく、韓国の消費者物価指数の上昇までもたらしている。
ロシアの欧州向けガス供給の遮断と、非友好国家に対する原材料輸出禁止措置は、エネルギー供給網の不安を引き起こし、国際エネルギー価格の上昇をもたらした。
液化天然ガス(LNG)や石炭など発電用燃料の価格が上がり、電力卸売価格(SMP)が引き上げられた。これは韓国電力、ガス公社などエネルギー公企業の赤字につながり電気・ガス料金の引き上げにつながった。
◇未来の食品産業も脅威
半導体、電気自動車、バッテリーなども海外原材料の輸入依存度が高く、需給先の確保に困難を来たす場合、危機に直面する恐れがある。
特に、韓国産電気自動車を税額控除対象から除外し、議論になっている米国インフレ削減法(IRA)の影響で、サプライチェーン多角化の必要性がさらに強調されている。
IRAの規定で、税額控除を受けるためには一定比率以上、米国や米国と自由貿易協定(FTA)締結をした国でバッテリーに必要な鉱物を調達しなければならず、バッテリー部品も一定比率以上北米産を使わなければならない。
しかし、バッテリーの主要な材料である黒鉛(グラファイト)は中国で生産されるものが82%に達し、天然黒鉛は100%中国で精製されている。
リチウムも米国とFTAを締結したオーストラリア、チリで主に生産されるが、精製は米国とFTA未締結国であるインドネシアが担っている。
バッテリー部品の条件もやはり中国依存度が高い。世界のバッテリーセルの75%以上が中国だ。バッテリーの主要素材である陽極材と負極材も中国依存度が60%を超える。
韓国のサプライチェーンの状況もこれと変わらない。韓国貿易協会によると、今年1~7月のバッテリーに必要な主要鉱物の中国輸入依存度は、水酸化リチウム84.4%、コバルト81%、天然黒鉛89.6%などとなっている。
(つづく)
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