2024 年 5月 4日 (土)
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[KWレポート] 中国が「イカゲーム」を作れない理由(3)

暴力性の激しいドラマはNG

ネットフリックス「イカゲーム」のポスター©MONEY TODAY

全世界で1億を超える世帯が視聴し、米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)の最高記録を更新した韓国ドラマ「イカゲーム」が、中国でも爆発的な人気を博しています。しかし「イカゲーム」のようなコンテンツを中国でつくり出すには、まだまだハードルが高いようです。その理由を考えてみました。(最終回)

中国の事情はこうだ。まず、検閲があるため、「イカゲーム」のように暴力性の激しいドラマは、絶対につくることができないという点が挙げられる。

「千万映画」(韓国で観客動員数1000万人を超える映画のこと)である「神と共に」も、中国では「迷信的な傾向がある」を理由に結局公開されなかった。

検閲だけでなく、中国共産党の宣伝・広報も問題だ。特に最近、中国の習近平国家主席が「共同富裕」を掲げるなど、党が左傾化(日本とは逆の概念で「国家主義的な考え方に傾く」こと)し、映画、ドラマに対しても中国政府の影響力が大きくなったように感じられる。2021年8月に放映されたドラマ「掃黒風暴」と、同10月の国慶節(建国記念日)の連休に公開された愛国主義的な映画「長津湖」が代表的な例だ。

朝鮮戦争(1950~53年)での戦いを題材にした「長津湖」はメディアでよく取り上げられたので「掃黒風暴」の話をしてみよう。

このドラマは、中央政府から派遣された監察チームが地方政府と暗黒街の結託を暴く内容。孫紅雷ら演技派俳優が総出演して中国で大旋風を巻き起こした。筆者も俳優の演技にのめり込んで面白さを感じたが、後半になればなるほど、中国共産党が国民のために奉仕するという、政府による宣伝行為があまりにも露骨になり、見ることができなかった。

サスペンスドラマ「沈黙的真相(ロング・ナイト 沈黙的真相)」も、警察が犯罪勢力を掃討する勧善懲悪的な結末になっているが、「掃黒風暴」ほどではなかった。ドラマが中国共産党の広報手段になり下がったという印象が残った。

これでは中国ドラマが、中国という「井戸の中の蛙」から逃れることはできない。いくら14億の人口を抱えるといっても、結局、中国は「井戸」だ。時間がたてば、中国人もこのようなドラマを見なくなるだろう。

中国が育成しようとする「ソフトパワー」は、社会で有機的に発生するものであり、政府から生まれるのは一部にすぎない。現状をみれば、中国共産党はむしろ、ソフトパワーを少なくする方向に動いている。ある意味で、中国共産党が中国のソフトパワーの最大の障害物である。

(おわり)

「中国が『イカゲーム』を作れない理由」はMoneyTodayのキム・ジェヒョン専門委員が取材しました。

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