
北朝鮮は今回の韓国大統領選に対し、これまで沈黙を保ってきた。ただ、その選挙結果には高い関心を寄せているとみられる。南北関係は冷却状態が続いているものの、韓国の政権交代は米中露の外交戦略にも影響を与えるため、北朝鮮にとっても見過ごせない要素だからだ。
ただ、専門家は北朝鮮が「南北は別個の国家」という既定路線に基づき、当面は韓国の動向に無関心を装いながらも、自国の内部事業に注力するとの見方を示している。
北朝鮮は現在、2021年に打ち出した経済・国防5カ年計画の最終年にあたり、今年下半期に向けた実績の最大化を図る体制整備に取り組んでいる。また、当面の外交戦略も対米・対韓よりはロシアとの連携強化に軸足を置いており、韓国大統領選への具体的なリアクションは控える公算が大きい。
今月は北朝鮮にとって内外ともに重要なスケジュールが目白押しだ。特に6月19日は、北朝鮮とロシアが新たな包括協定を結んでから1周年にあたる。北朝鮮はこの記念日に合わせて外交的存在感を高めるとみられ、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記がロシアを訪問し、プーチン大統領と会談するとの観測も浮上している。ここでは韓国大統領選やウクライナ侵攻に関する意見交換が進められる可能性もある。
また、今月下旬には朝鮮労働党中央委員会第8期第12回全員会議の開催も予定されている。この会議は上半期の国政運営の総括と今後の政策方針の提示を目的とする北朝鮮で最も権威ある政治会議の一つであり、外交路線を含む各種戦略が議題となる可能性がある。
ただし、新たな外交方針の発表については、今年末か来年初頭に予定されている党大会で新たな5カ年計画と併せて示されるとの見方が有力で、今回の全員会議では内政に焦点が当たるとみられる。
加えて、5月21日に清津造船所で起きた新型5000トン級駆逐艦の進水式事故について、キム総書記が6月中の復旧完了を命じていることから、この復旧作業に相当な資源と人材が投入されている模様だ。進水式での事故を巡っては、党内人事が大規模に刷新される可能性もある。
観光再開も北朝鮮の重点課題の一つだ。キム総書記は、元山・葛麻海岸観光地区の6月中の開業を明言しており、これを契機に今年3月に一時再開されたものの再び停止された外国人観光事業の本格的再開も検討されている。
同観光地は“過去最大規模”のリゾート施設とされ、開業準備には国家的なリソースが注がれているとみられる。
このように北朝鮮は、韓国の政局とは距離を置きながらも、国家の経済目標達成と対露外交の深化に照準を合わせ、極めて多忙な6月を迎えている。
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