「俳優の高額出演料と人気脚本家の高額原稿料」
韓国ドラマを見ていると、不自然な形で商品が“こちら”を向いていることがあります。この「間接広告」(PPL)と呼ばれる手法は、高騰する制作費をまかなうための苦肉の策といわれてきました。しかしOTTの登場に加え、企業自ら優れたコンテンツを世に送り出すという手法も普及して状況が変わったようです。韓国の現状を見てみましょう。(シリーズ4/計5回)
ディズニー公式動画配信サービス「Disney+ (ディズニープラス)」は昨年から一部のコンテンツに対して「PPL警告」の表記を始めた。
「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」「アベンジャーズ:エンドゲーム」など、米マーベル・エンターテインメントの映画にはPPL表示が出る。映画「アイアンマン」でトニー・スタークが「BURGER KING」のチーズバーガーを食べ、アウディ車に乗るのもすべてPPLだ。ディズニープラスは、新たに制作するオリジナルコンテンツに入るPPL確保にも熱を上げているという。
動画配信サービス「アップルTV+(プラス)」はiPhone、iPad、MacBookなど自社製品の広報のため、PPLを積極活用している。昨年11月にアップルTV+が韓国に進出する際、初めて公開した韓国オリジナルコンテンツ「ドクターブレイン」でも、主人公イ・ソンギュンがiPhoneとMacBookを使う場面が繰り返される。
米紙ウォールストリート・ジャーナルがアップルTV+のオリジナルコンテンツ「テッド・ラッソ」「ザ・モーニングショー」「ジェイコブを守るため」「Trying~親になるステップ」の74つのエピソードを分析した結果、iPhoneが300回、MacBook120回、AirPods40回とそれぞれ露出した。再生時間で計算すると、1分当たり1.24個のアップル製品がお目見えするわけだ。はなはだしくは、主人公が「アップル株を買う」と言い、悪役にはAndroidを使わせるなど、視聴者に無意識のうちにアップルのブランドイメージを植え付けているのだ。
結局、巨大資本を持つグローバルOTTも同様に、新たな収益モデルであるPPLの効果を体感し、世界のPPL市場は次第に膨らむ。米ブルームバーグ通信によると、世界のPPL支出は昨年、前年比13.8%増の233億ドルに上ると見込まれていた。
業界のある関係者が解説する。「PPLが適切ならば、両者のウィンウィンの効果は非常に大きくなる。問題なのは、コンテンツの質に悪影響を及ぼすような過度なPPL。コンテンツ市場の規模拡大・発展のためにもPPLの適正化は世界的な課題だ」
ネットフリックスなどグローバルOTTを通じて韓流ドラマが各国で放映されている。この流れに乗れば、自社ブランドの各国での認知度を高めるチャンスとなる、というのは自然な判断だ。韓国第1号PPLマーケティング会社「AZnis」のチェ・チュンフン代表はこれを裏付けるような解説をする。
「これまでは日本や中国を中心にPPLに関する問い合わせが入る程度だったが、最近はインドネシアなど東南アジアからも問い合わせが相次いでいる」
◇2002年冬ソナが起点
「PPL界のゴッドファーザー」。これがチェ・チュンフン代表の別名だ。地上波放送局で小道具補助、カメラ補助、マネージャーとして働き、米ハリウッドのPPLを目にした。PPL規定が2010年に整えられる前の1998年、PPL事業を始めた。
映画「E.T.」で、少年がハーシー社のチョコレート「Reese’s Pieces」を渡すシーンがあった。「ドラマ制作会社と企業を回りながら、あのシーンで途方もなく売上が上昇した、という事例をあげ、一つずつ説得した」。チェ代表はこう回想した。
初期のころは映画のPPLが多かった。それが時間の経過とともにドラマの比重が高くなった。映画は撮影から公開までのスパンが長いうえ、公開そのものも保障されているわけではない。広告主が次第に、サイクルの速いドラマに目を向け始めたのだ。そして2002年の「冬ソナ」を基点にPPLが活性化し始めた。
最近、PPLの“乱用”が批判されている。チェ代表はこの原因を「コンテンツの生産があまりにも多い」という点でとらえている。
「地上波3社だけの時代、生産されるコンテンツは限られていた。数少ない作品にPPLを望む広告主が集まり、制作陣の好みに合わせて広告を出していた。だが、今はコンテンツ数があまりにも多い。PPLを求める制作側が、PPLを出したい広告主の数をはるかに上回っている」
撮影現場の雰囲気も変わった。「以前はPPLを持参すると、やや非協力的だった。『なぜ、これをやらないといけないのか?』という感じで。でも今は、ごく当然だという雰囲気だ。それゆえ、広告主の好みに傾き、過度なPPLが量産されるという実態がある」
いまの状況を単に制作会社と広告主の責任にしてはならない。チェ代表は、それよりも「過剰な出演料と人気脚本家の原稿料」が根本的な原因だと考える。「韓国資本で制作する大半ドラマが、天井知らずに高まった制作費をまかなうため、PPLを唯一の手段としている。海外資本が入ってきて海外版権も拡張し、制作会社の収益構造が正常化すれば、今の状況は収まるだろう」とみる。
チェ代表は「私の立場からも、いまのように過度にPPLが出る市場は望ましくない」という。「長期的に見て、PPL市場がより大きくなるためには、制作会社側の利益にもなるような市場にする必要がある」と指摘する。
(つづく)