韓国・保守系野党「国民の力」のユン・ソンヨル(尹錫悦)氏が党の大統領候補に選ばれて1カ月半が過ぎた。その間、「検事ユン・ソンヨル」のイメージから抜け出して「政治家ユン・ソンヨル」に生まれ変わったようだ。
得票率47.85%――ユン氏は今年11月5日、ホン・ジュンピョ(洪準杓)議員を破り、「国民の力」の大統領候補に選ばれた。「来年3月9日を、私たちが知っていた法治、公正、常識が息づく、誇らしい大韓民国の日にする」。候補選出後に演説したユン氏はこう打ち上げ、強い自信を示した。
スタートは好調だった。
候補に選ばれた後、党のキム・ジョンイン(金鍾仁)元党非常対策委員長やイ・ジュンソク(李俊錫)代表と相次いで会談し、大統領選での「勝利の方程式」を具体化していった。候補確定による「コンベンション(代表者会議)効果」により、与党「共に民主党」の大統領候補、イ・ジェミョン(李在明)氏との支持率でも10ポイント以上リードした。
「政権延長論」より「政権交代論」――大統領選に対する国民の認識も後者が前者を圧倒し続けた。
ところが、こうした雰囲気は2週間も続かなかった。選挙対策委員会から雑音が流れてきた。
ユン氏はかつて検察総長を辞任した後、親しくしてきたキム・ジョンイン氏を「選挙対策委員会の総括選対委員長として迎え入れる」という考えを示した。大統領候補に選ばれた直後にキム・ジョンイン氏に会ったこともこの図式を可視化するものと受け止められた。
だが、ふたを開けてみれば、案は「常任選対委員長はキム・ビョンジュン(金秉準)氏」。キム・ジョンイン氏との関係が急激に冷え込んだ。
今年10月20日、ユン氏はキム・ジョンイン氏、キム・ビョンジュン氏との3者会合に臨み、選挙対策委員会の人選を終えたかのように見えた。ところが、その2日後、キム・ジョンイン氏が突然、「時間が欲しい」と言い出し、問題が本格化した。
この状況のなかで、ユン氏は「キム・ビョンジュン常任選挙対策委員長」案を強行し、選挙対策委員会の構成は迷走することになった。
さらに、イ・ジュンソク代表との葛藤も浮上した。
選挙対策委員会共同選対委員長の人事で、イ・ジュンソク代表の反対にもかかわらず、イ・スジョン教授を迎え入れることにした。さらに「ユン核観(ユンの忠臣)」と呼ばれるユン氏側の主要関係者によるイ・ジュンソク代表に対する陰謀論まで取り上げられ、ユン氏とイ代表の葛藤は取り返しのつかないほど大きくなった。
結局、イ代表は同月29日午後、フェイスブックに「それなら、ここまでです」という短い文を残し、姿を消した。
ユン氏とキム・ジョンイン氏、イ・ジュンソク代表との葛藤の背後には、側近の存在がある。
キム・ジョンイン氏とイ・ジュンソク代表は、ユン氏の側近らを指して「ハエの群れ」「ハイエナ」という表現を使って蔑んだ。政治家として新人であるユン氏が、彼らに囲まれ、国民が期待した斬新な姿を示せないことへのもどかしさの表れでもあった。
だが、ユン氏は両者の声に気を神経を使うことはなく、かえって葛藤を増幅させた。
国民に対するメッセージが発せられず、さまざまな発言も火に油を注いだ。
常任選挙対策委員長となったキム・ビョンジュン氏。民主党のイ・ジェミョン氏が選挙対策委員会共同常任選対委員長として迎え入れた西京大のチョ・ドンヨン(趙東淵)教授を「きれいなブローチ」にたとえた。すると「女性専門家をアクセサリーに例えるのは不適切だ」という批判が殺到した。
ユン氏も週52時間制や最低賃金などに関連した失言を重ね、批判の矢面に立った。チン・ジュングォン(陳重権)元東洋大教授は「そもそも頭の中に『話題の先取り』という言葉が入っていない」と批判したうえ「出しゃばり」という厳しい言葉を投げた。
このような状況が積み重なり、イ・ジェミョン氏との支持率の格差は縮まり、結局、逆転を許した。
すると、今度はユン氏が状況整理に乗り出した。
イ・ジュンソク代表が姿を消してから4日目の今月3日、蔚山(ウルサン)市のある食堂でイ・ジュンソク代表に談判し、すべての葛藤の解消を試みた。
さらに、キム・ジョンイン氏の総括選挙対策委員長の受け入れも発表し、ついに「候補=ユン・ソンヨル/総括=キム・ジョンイン/広報=イ・ジュンソク」という3人態勢が誇示されるようになった。
政界関係者の間では、ユン氏はこの1カ月で「希望と憂慮を同時に見た」という言葉が飛び交っている。
シン・ユル明知大教授は次のような見解を示す。
「ユン氏が政治をあまりにも簡単に考えていたようだ。学習能力があるという側面では、この1カ月の歩みを評価すべきだろう。だが大統領選まで3カ月という時間が残っているため、いつでも問題は再発し得る。そのたびにどのような判断を下すのか見守らなければならない」
チェ・チャンリョル竜仁大教授の見方はこうだ。
「この1カ月間、問題の核心はユン氏の側近たち、すなわち『人のカーテン』に囲まれた印象を国民が受けたこと。キム・ジョンイン氏とイ・ジュンソク代表らすべて受け止めて整理したということは評価する。ただ、政権をとっても同様の問題が発生する可能性がある。国民が疑惑の視線を送る側近政治を、確かに警戒し、そうした認識を打開する姿を見せ続けるべきだ」
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