現場ルポ
韓国には中国からの出稼ぎ労働者が数多く居住する。その大半が、朝鮮半島出身者を祖先に持ち、中国語と朝鮮語の両方を話す朝鮮族だ。中国では少数民族の一つに数えられる。ビジネスチャンスを求めてソウルを目指してきたはずの朝鮮族が今、そのソウルから離れつつある。
◇ 「ここのどこが“市場”?」
新型コロナウイルス感染が始まった初期に職場を失い、今はスーパーマーケットを営んでいる中国朝鮮族女性、パク・クムヒさん(35)。彼女はパンデミックの延長戦の真っただ中にいる。
新型コロナ感染が韓国に上陸した当時、勤めていた免税店を辞めた。そして昨年になってようやくソウル市九老(クロ)区加里峰洞(カリボンドン)の市場に店を出した。だが売り上げはいっこうに伸びない。
加里峰市場はがらんとした様子だ。パクさんはそれを見て、ため息をついた。「いったい、ここのどこを見れば“市場”なのか」
新型コロナ初期に大きな打撃を受け、ソウルの加里峰洞などの「チャイナタウン」の人口は明らかに減っている。ここに住んでいた中国朝鮮族が2019年ごろからそれぞれの理由で中国に帰ったり、韓国各地に散らばったりして、ソウルチャイナタウンの位置する大林(テリム)や九老の登録外国人人口は今年までで40%近く減少した。
新型コロナはパンデミック(世界的大流行)からエンデミック(風土病)に移行しつつある。これによって外国人観光客が戻ってきて、明洞(ミョンドン)や光化門(クァンファムン)一帯などは、再び活気を取り戻している。
だが、ソウルのあちこちにあるチャイナタウンは、相対的に劣悪な住居環境と、中国朝鮮族の人口変化などと相まって、危機から抜け出せずにいる。
◇人口減、実態はさらに深刻か
10月末、ソウル市九老区加里峰洞のチャイナタウンのレストラン街。ランチ客でにぎわっているはずの時間なのに、街には静寂が漂っていた。
ほとんどの店は営業中だ。だが従業員らは携帯電話をいじったり、テレビを見たりして、接客に忙しいという様子ではない。
加里峰洞に住む朝鮮族労働者(47)はこんな話をした。
「新型コロナ以後、人が急激に減った。中国に戻ったり他の地域に移ったりしたようだ。物価も上がり、家賃も高い」
ソウルで「小さな中国」と呼ばれる大林も事情は同じだ。
チャイナタウンは、ソウル地下鉄7号線の大林駅12番出口の前に位置する。ここに入ると、中国語の看板と香辛料の匂いが充満している。なのに、街に朝鮮族の姿はそれほど多くない。
ソウル市の登録外国人現況によると、今年第1四半期の加里峰洞の登録外国人は4005人で、2019年第1四半期(6529人)比で38%減だ。大林1~3洞の登録外国人数は同期間に1万8231人から1万2102人と33%減少した。同地域の外国人のうち、中国朝鮮族の割合は90%前後とされている。
住民らの話によると、観光ビザで韓国に滞在する未登録人口も大きく減っているという。統計に表れない数字まで考慮すれば、実際の人口減少幅はさらに大きいようだ。
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