韓国のムン・ジェイン(文在寅)前大統領が、在任中に北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記からプレゼントされた北朝鮮原産の豊山犬2匹を、このほど国に返還した。2匹は既に韓国光州市(クァンジュシ)にある動物園に引き渡され、国側が返還を要求しない限り、そこで余生を送ることになる。
◇国の所有
キム総書記(当時は朝鮮労働党委員長)は2018年9月の南北首脳会談を機に、「ソンガン」「コミ」と名付けられた豊山犬のペアをムン氏にプレゼントした。2匹は南北を隔てる非武装地帯(DMZ)の板門店(パンムンジョム)を経由して3キログラム分のえさとともに韓国側に運ばれ、韓国大統領府でムン氏が飼育していた。
韓国では今年5月に政権交代があり、2匹の引き継ぎ問題が浮上した。大統領が国家元首級から受け取ったプレゼントの所有権は国にあり、本来は大統領の資料などを保管する「大統領記録館」に保管される。ただ、2匹は動物のため▽後任のユン・ソンニョル(尹錫悦)氏が引き継ぐ▽国立動物園など公共機関に譲り渡す――などの案が検討された。
ユン氏の「たとえ首脳間の贈り物であっても、それまで育てていた主人が引き受けるべきだ」との意向もあり、結局、ムン氏の退任とともに慶尚南道(キョンサンナムド)梁山市(ヤンサンシ)の私邸に引き取られた。
◇委託管理
その際、大統領記録館からの管理委託という形式が取られ、ムン氏はユン政権側に豊山犬の飼育・管理費用を国から受け取るための法令整備を求めた。
ところが、法令の整備は進まず、行政安全省が1カ月当たり計250万ウォン(約26万円)=飼料代35万ウォン、医療費15万ウォン、管理用役費200万ウォン=程度の予算案を策定しても政府内から反対意見が出て執行できず、管理費はムン氏個人が負担することになった。
こうした状況を受け、ムン氏は11月5日、同省に豊山犬を国に返還すると通知した。この時、ムン氏は「これまで育ててきた情があり、耐えてきた。ユン政権は法令整備を約束したのに、それを進捗させなかった。退任から半年が過ぎた今、同じ状態が続いている」と訴えた。
これに対し、ユン政権側は「法令整備に反対はしておらず、関係省庁が協議中の段階だった」と反論している。
ムン氏が飼料代を惜しんでいるという批判も上がったが、ムン氏は「この6カ月間、大統領記録物であるペットにかかるすべての費用を退任大統領が負担し、愛情を注いできた。むしろ感謝してほしい」と訴えた。
◇動物園で余生
ムン氏のもとを離れたコミとソンガンは、大邱(テグ)市の慶北(キョンプク)大学獣医学部付属動物病院で検査を受けた。その後、大統領記録館と光州(クァンジュ)市の協議を経て、今月9日に光州市北区の「ウチ公園動物園」に引き渡された。豊山犬は大統領記録物であるため、譲渡ではなく貸与の形を取っている。
コミとソンガンは1.5坪余りの飼育場で生活を始め、午前と午後の2回、合わせて2時間ずつ園内を散歩をしている。大統領記録館から返還要求がない限り、コミとソンガンはここで生涯を終えることになる。
韓国と北朝鮮は過去にも、緊張緩和のシンボルとして犬を贈り合う交流を進めてきた。
2000年6月に韓国のキム・デジュン(金大中)大統領(当時)と北朝鮮のキム・ジョンイル(金正日)総書記が初めての首脳会談を開いた際にも、キム・ジョンイル総書記は「ウリ(われわれ)」「トゥリ(ふたり)」と命名した豊山犬2匹をキム大統領に寄贈した。キム大統領もお返しに、韓国原産の珍島犬2匹に「ピョンファ(平和)」「トンイル(統一)」との名前を付けてプレゼントした。
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