韓国の俳優チェ・ミンシクが“絶対にドラマには出ない”というイメージを破り、ディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」制作のドラマ『カジノ』に出演すると報じられた。チェ・ミンシクは1998年以降、20年余り、映画出演に専念してきた。韓国映画界では「新型コロナ以後、国内映画市場が劇的に縮小し、どの俳優も映画だけでは仕事にならない環境になった」という見方が広がっている。
◇「映画俳優」と「ドラマ俳優」の境界が消えた
ドラマを選択したのはチェ・ミンシクだけではない。ソル・ギョングもそうだ。
デビュー初期の1994年にドラマ『長女』に出演して以降、ソル・ギョングは30年近く映画に専念してきた。そんな彼も先日、ピョン・ソンヒョン監督がメガホンを取る米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)オリジナル『キルボクスン』への出演を決めた。
2007年以降、ドラマ出演のなかったハ・ジョンウも、ネットフリックス『スリナム』に出演する。チョン・ドヨン、ファン・ジョンミンらも最近、活動領域をドラマに広げた。
今や映画に専念する俳優はソン・ガンホだけといっても過言ではない。
もちろん、ソン・ガンホもドラマに出演する可能性がある。彼は2020年、あるインタビューで「ドラマを拒否しているわけではない」と話したことがある。韓国の制作会社関係者は「ソン・ガンホに加え、ドラマに出演しないカン・ドンウォンやパク・ヘイルも、考えを変えさせられる日が来るだろう」とみる。そのうえで「この状況が続けば、将来、『映画俳優』という言葉は死語になるかもしれない」と見通している。
◇変わるドラマの現場
映画俳優がドラマへと活動領域を広げる理由は、新型コロナの影響で映画館の観客が激減し、自宅で見るような映像コンテンツが優位になったことが大きな要因だ。
映画館の観客が急減(2019年2億2667万人→2021年6052万人)する一方、OTTプラットホームは急拡大(ユーザー数2020年1706万人→2021年2420万人)した。
OTTの急速な普及で、映画館ではなく映像コンテンツの影響力が強まり、映画監督らがドラマ市場に大勢流れ込んだ。OTTでドラマを制作した、あるいは制作中の映画監督はヨン・サンホ、ハン・ジュンヒ、ユン・ジョンビン、チョン・ジウ、イ・ジュンイク、ハン・ジェリム、キム・ジウン、イ・ビョンホンら。彼らはみな、韓国映画界の各世代を代表する監督だ。
こうした監督たちと仕事をしてきた俳優たちもドラマに出演せざるを得なくなったというわけだ。
彼らがOTTと出会い、ドラマの現場も変わった。
テレビドラマは短くても1話当たり75分で16話のロングラン。生放送のように進められる緊迫した撮影などもあり、映画俳優たちは避けてきた。
だがOTTがドラマを制作するようになって状況は変わった。分量は50~60分の8話になり、入念な準備が施されるようになった。
韓国の制作会社関係者は次のように解説する。
「映画監督は、それまで一緒に仕事をしてきたスタッフを引き連れて、映画の現場とほぼ同じように、完璧にドラマを作っている。ストーリーは多くて10話、短いものは6話で終わる。だから俳優の負担も少ない。映画1本を少し長く撮るものととらえればよい」
実際、ハン・ジュニ監督の『D.P』やヨン・サンホ監督の『地獄が呼んでいる』は、彼らと一緒に仕事をしてきた映画スタッフがそのまま担当して制作した作品だ。
いまや、韓国ドラマが世界市場を攻略できる状況になり、これが映画俳優たちに「転向」を促したという見方もある。特にネットフリックス、ディズニープラス、動画配信サービス「アップルTV+(プラス)」の作品は、公開と同時に数億人の海外ユーザーが潜在的視聴者になる。自身が出演した作品を韓国の何倍もの市場で披露できることは、「映画俳優」という肩書よりも大きな価値があるというわけだ。
『イカゲーム』の歴史的ヒットにより、このドラマ1本しかない出演作のない新人俳優チョン・ホヨンがグローバルスターになった。業界では「このサクセスストーリーが映画の俳優と監督を大いに刺激している」とささやかれる。
韓国のエンタメ業界関係者は「芸能人とコンテンツは結局、関心を糧として育つ。映画俳優のドラマ出演は、世界市場で自身の演技を披露するぞという宣言のようなもの」とたとえる。
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