デジタル複製の象徴「MP3」を覆す
音楽の分野にNFTを活用して、音楽産業の「慢性的課題」だった音源のコピー問題の解決や、インディーズアーティストたち収益確保を目指す人物が韓国でNFT事業を起こしました。その人物をnews1が取材しました。(シリーズ1/2)
「デジタルコピーの象徴がMP3じゃないですか。そうした文化を“覆す”という意味を込めて、社名も“MP3”をひっくり返しました」
音楽・エンターテイメントNFTスタートアップ「3PM」のイム・ジスン代表は、社名の由来をこう明かした。NFTにより、音楽産業のあり方が変わっている――こう強調した。
イム・ジスン氏が言及したように、最近、無限に複製ができたオンラインコンテンツの世界を、NFTが変えている。
NFTで思い浮かべるのは、「デジタルアート」と呼ばれる芸術作品やプロフィール写真用(PFP)キャラクターのイラストだ。実は、音楽の分野でも絵に劣らず、NFTが大いに活用できる。音楽産業の慢性的な問題であった音源のコピーを解決するのにNFTが役に立つからだ。
その方法とは、所有権をブロックチェーン上に記録することで「非代替」な音源コンテンツを生成し、無断複製・販売を防ぐことだ。音源NFTが再版される場合、原作者がプレミアムを受けられるという長所もある。長い間、収益を出せなかったインディーズアーティストたちがNFTの世界に参入する理由が、まさにこれだ。
◇かつてHYBE在籍
イム・ジスン氏はかつて、かのBTSが所属する大手エンターテイメントHYBE(ハイブ)に在籍していた。そのイム・ジスン氏が、大手エンターテイメント会社を退職して、創業に挑むほど、NFTの分野は可能性に満ちているというのだ。
「2020年の終わりごろ、しばらく途絶えていたNFTというキーワードが再び話題になり始めた。市場もNFTを受け入れる雰囲気に変わり、エンタメ産業でもNFTが使われるという可能性を感じた。2021年になるとエンタメ関連のNFTが殺到した。ただ、HYBEでNFT事業を多様化させるには制限があった」
そして、イム・ジスン氏は昨年5月、3PMを創業した。
もっとも、最近になってHYBEもNFT事業を活発化している。ただ、エンタメ各社のNFT事業は所属アーティストが中心だ。イム・ジスン氏の考えは、あくまでも「より多くのアーティストにNFTの機会を提供すること」だった。
◇Web3.0時代の音楽流通プラットフォーム
イム・ジスン氏は、NFTが音楽市場で多くの社会的効用をもたらすと確信していたという。その底流には、次のような現状認識がある。
「現在の音楽市場は、音源を制作するレーベルと、流通を担うストリーミングプラットフォームを中心に回っている。アーティストが多くの収益を得られない構造であり、浪費的だ」
こうした問題を解決するため、3PMは現在、インディーズバンドのGlen Check、ギタリストのキム・セファンら、さまざまなアーティストとコラボしてNFTアルバムを制作、流通させている。
アーティストの音源をNFTで発行し、販売・精算までサポートする「Web3.0時代の音楽流通プラットフォーム」を掲げ、アーティストとファンに最大限の収益が行き届くようにする――これが3PMの目標という。
◇「技術に通じている必要はない」
事業において、イム・ジスン氏が最も重視することは、アーティストがブロックチェーンやNFTのような技術に通じていなくとも、その恩恵を受けられるようにすることだ。
「アーティストがそうした技術に優れている必要はない。アーティストには、従来のストリーミングプラットフォームの方法にNFTを組み合わせたモデルを提案している。NFTに詳しくなくても、NFTによって長期的に恩恵を受けられるようにする」
そのために必要なのは、NFTのハードルを取り除くことだ。
実際、多くのアーティストやファンはNFTへのアクセスには不慣れだ。ファンがアーティストのNFTアルバムを購入するためには暗号資産(仮想通貨)ウォレットを開設する必要がある。イーサリアム(Ethereum、ETH)のような暗号資産で決済しなければならない。
こうした手法に慣れていない一般のファンは、購入前からハードルに直面することになる。
◇ロックフェスでNFTチケット
こうした状況のなか、3PMは最近、韓国最大の野外ロック・フェスティバル「仁川ペンタポート・ロック・フェスティバル」のNFTチケットを制作し、NFTに対するハードルの引き下げを試みた。
カード決済でNFTを購入できるようにしたのだった。その際には、NFTチケットを保管するための暗号資産ウォレットも必要ないようにした。
ただ、イム・ジスン氏は「ハードルを取り除こうとしているが、その道のりはまだまだ遠い」とみる。それでも「NFTが音楽産業で定着するよう、インフラを生み出したい」と意気込んでいる。
(つづく)
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