同姓同本の結婚禁止制 (下)
短期間で急激な発展を遂げた韓国社会には、歴史の転換点で示された数多くの判決があります。そのうちの20件を通して、韓国社会の「時代精神」がどう変化を遂げたのか探ってみました。(シリーズ4/7)
◇産みの苦しみ
ソウル家庭裁判所は1995年5月17日、「同姓同本」結婚禁止規定に対する違憲審判を請求した。
その理由として、主に次の5点を挙げた。
・幸福追求権に重大な障害
・男系血族だけを問題視し、女性の平等権侵害
・医療保険、給与、家族手当てなど勤労関係からくる不利益
・相続など財産問題
・深刻な障害に伴う憲法上の婚姻と家族生活の権利侵害
憲法裁は約2年間の審理を経て、1997年7月16日、事実上の違憲判断である「憲法不合致」の決定を言い渡した。1960年の民法施行以来、初めてのことだった。
裁判官9人のうち「合憲」意見は2人。2人が「憲法不合致」、5人が「単順違憲」と判断した。審判定足数(6人)には至らなかったため、「違憲」ではなく「憲法不合致」となった。
憲法裁の判断は次のようなものだった。
▽社会的妥当性ないし合理性を喪失している
▽『人間としての尊厳と価値および幸福追求権』を規定した憲法の理念や規定と『個人の尊厳と両性の平等』に基づいた婚姻と家族生活の成立・維持という憲法規定に正面から反している
▽婚姻禁止の範囲を男系血族だけに限定し、性別によって差別している
▽遺伝学的な理由で近親婚を禁止しなければならないならば、これは男系血族だけでなく女系血族にも同じように問題になるはずだが、同姓同本結婚制は男系血族だけを問題視している
▽遺伝学的な病気の発生頻度が、異性間または同姓同本間の婚姻の場合、どちらがより高いという科学的な証明もないことが明らかになっている
ただし、憲法裁は「同姓同本の血族間の婚姻を勧奨するわけではない。また、これまでの普遍的で妥当な倫理、あるいは道徳的観念をすべて否定するわけでもない。この点を明確にしておく」とも強調している。
憲法裁判所は、同姓同本結婚禁止条項を1998年12月31日までに改正し、未改定の場合、1999年に失効すると決定した。これを受け、政府は1998年11月、該当条項を削除した民法改正案を提出した。
ところが、世論の反発を警戒した国会は、同姓同本結婚禁止条項を1999年まで維持することを議決した。
憲法裁の判決で死文化されたのに、同姓同本結婚禁止条項が完全に消え去るまでには、さらに8年の歳月が必要だった。
ようやく条項が民法から削除されたのは2005年になってからだった。
◇「8親等以内の近親婚禁止」条項も問題に
憲法裁判決で、儒家思想に基づいた旧時代的な「同姓同本」結婚禁止規定は歴史の中に消えた。だが、どこまでが「近親婚」なのかをめぐっては、論争が依然として続いている。
改正された民法809条第1項は「8親等以内の血族(里親の養子縁組前の血族を含む)の間では婚姻できない」と規定する。8親等以内の結婚を「近親婚」としたのだ。
大半の国で、近親婚の範囲は3親等以内の直系血族の水準であり、近親婚に対する規定がない国も多い。ドイツ、スイス、オーストリアは、3親等以上の傍系血族間の婚姻を許可する。米国、英国、フランス、イタリア、日本は4親等以上の傍系血族であれば婚姻は可能だ。韓国が、特に広範囲に近親婚の禁止範囲を設定し、基本権を制限しているという批判がある。
8親等以内の近親婚禁止については、違憲訴訟も提起された。
2016年にA氏は6親等のB氏と婚姻届を出したが、その後、B氏が婚姻無効確認の訴えを起こして婚姻が取り消された。
A氏は家庭裁判所に控訴する一方、違憲法律審判請求をしたが棄却された。すると、A氏は2018年2月19日、憲法訴願審判を再度請求した。
憲法裁は2020年11月12日に公開弁論を開き、意見を取りまとめた。
違憲に賛成する側は、海外諸国の事例を指摘して「遺伝学的観点からも、6親等ないし8親等の血族間での婚姻の場合、その子供に遺伝疾患が発現する可能性が、非近親婚の子供の場合とほとんど差がない」と指摘した。侵害の度合いが極めて小さく、法益の均衡に違反するという主張だ。
一方、利害関係人である法務省側は次のように対抗した。
「審判の対象である条項は、近親婚の夫婦の間に生まれた子供たちに現れる遺伝疾患や生物学的脆弱性を防止し、わが民族の婚姻風俗および親族観念に基づいた伝統を受け継いで、共同体の秩序を維持するためのもの。目的の正当性および手段の適合性が認められる」
8親等以内の血族間の結婚禁止規定に対する憲法訴願は、既に4年以上憲法裁に係留中だ。
薄くなった親族意識や、海外の事例、遺伝学的問題などを総合的に判断するなかで、憲法裁は簡単に結論を出せずにいる。
数十万人が影響を受けた同姓同本結婚禁止問題とは異なり、8親等以内の結婚禁止規定は対象者が多くなく、社会的議論は遅々として進まない。
憲法裁の判断が遅れている中で、今年4月1日には民法第809条第1項に対する違憲確認申請が追加で受け付けられている。
(つづく)
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