「健常者と同じように楽しむ権利」
日本で韓国映画を視聴する際、日本語の字幕がストーリーへの理解を助けてくれます。一方、韓国で上映される場合、大半で字幕がなく、同国の聴覚障害者が「韓流」を楽しめないという現実があるようです。MONEYTODAY記者が体験ルポにまとめました。(最終回)
◇字幕があれば映画に没入できる
「ハングル字幕があれば、内容をすぐに理解でき、観客として完全に映画に没入できる。みんなと同じ場面で、笑って、泣いて……。同じように楽しめるというのが一番大きい」
聴覚障害者であるソヒさんはこんな感想を語った。これは、健常者と同じように映画を見て、楽しむ権利に過ぎない。
ところが、映画館事業者側の態度は、必ずしもこれと一致するものではない。社団法人「障害者差別禁止推進連帯」の活動家、パク・スンギュさんは次のような見解を示している。
「映画館事業者が『カチボム』作品を上映するのは、障害者に同情し、恩恵を与えているという立場を強調するためのイベントに過ぎない。必要なサービスをすべて提供している、と主張しているに過ぎない」
月に1、2本の映画を決め、4、5日程度、しかも平日中心。「視・聴覚障害者のためだ」という建前を振りかざしながら、ハングル字幕映画を見せているに過ぎない――パク・スンギュさんはこう嘆いた。
実際、2020年に3大映画館で上映された「カチボム」の映画は8本に過ぎない。上映回数も116回にとどまる。この年、韓国で公開された映画(約1900本)の0.4%に過ぎない。
韓国の国民なら、誰でも、どこでも、興味のある映画を、望む時間帯に見たい。だが、障害者にとって、それが現実的なものではない。だから根本的な「差別」なのだと言う。
「映画『トガニ』の被害当事者である聴覚障害者が、そもそもその映画を見られなかった」。このパク・スンギュさんの言葉に、状況の深刻さを感じ取ることができた。
◇状況改善訴え提訴
映画館事業者に状況改善に向けた積極的な意思が感じられない――。視・聴覚障害者4人がマルチフレックス映画館3社(CGV、ロッテシネマ、MEGABOX)に2016年、訴訟を起こした。1審(2017年12月)は障害者が勝訴、2審(2021年11月)も障害者が一部勝訴した。
2審判決では、300席以上の大型マルチフレックスに対して「上映館1カ所以上で、総上映回数の3%の範囲で、ハングル字幕または画面解説映画を提供せよ」と判示した。
だが原告、被告双方が上告し、最高裁判決を待っている。
視・聴覚障害者と健常者が、一緒に「犯罪都市2」を楽しみ、笑うことはできないものか。記者はSNS読者3855人を対象に、先月24日夜までアンケートを取ってみた。
映画館で見る韓国映画にハングル字幕が入っても「良い、かまわない」か「嫌だ」の二つの選択肢で聞いてみた。その結果、前者は76%(1709人)、後者24%(529人)だった。
前者について「(俳優のセリフの)発音が不正確な場合もあり、集中力が落ちる時、字幕があれば、より集中できる」「俳優が何と言っているのか聞き逃す逃す時がある。字幕があれば映画をより理解でき、流れについていくことができる」という意見が寄せられた。一方、後者を選択した人には「スクリーンに字幕が出続ければ、セリフに対する感情が途切れる感じがする」という回答もあった。
◇米国では字幕など義務付け
米国では2016年11月、障害者法が改正され、「映画館は障害者利用者に字幕・画面解説を提供しなければならない」と規定した。これによる、あらゆる費用負担は、製作会社や配給会社に課せられた。聴覚障害者は自分の座席前の透明な画面やメガネで字幕を見る。視覚障害者はスマートフォンアプリで画面解説を聞くことができるようになった。
英国とアイルランドの映画館約550カ所でも聴覚障害者のために毎週1500回程度、字幕映画が上映されている。 特に上映回数はこの5年間で120%増えた。大半の字幕は開放型(映画館の画面に映し出すこと)で構成される。ただし、人気時間帯には字幕上映が少ない。
韓国でも最高裁判決が確定すれば、3大マルチフレックスに字幕・画面解説による上映が義務づけられる。
(おわり)
「韓国人なのに韓国映画が楽しめない」はMONEYTODAYのナム・ヒョンド記者が取材しました。
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