上映106分、笑えたのは一度だけ
日本で韓国映画を視聴する際、日本語の字幕がストーリーへの理解を助けてくれます。一方、韓国で上映される場合、大半で字幕がなく、同国の聴覚障害者が「韓流」を楽しめないという現実があるようです。MONEYTODAY記者が体験ルポにまとめました。(シリーズ2/3)
「犯罪都市2」の推薦レビューはアクションとユーモアが半々。だが、半分の「ユーモア」を知る術がないため、とても重くて、まじめなアクション映画――となった。
多くの観客が「とても面白い」と振り返っていた名セリフも、どの場面のものなのかわからなかった。
大きな画面を見る集中力が落ちてくると、それとなく周りの人を見るようになった。前に座った老夫婦も、斜め前の中年女性も、右側のカップルも笑うのだが、1人、楽しくなかった。
106分の間に笑ったのはたった1回。マ・ソクトが百貨店のエスカレーターで、カン・ヘサン一味の1人と戦うシーンだ。悪党に殴られるのが嫌で後退りする場面だった。画面を見るだけで理解できるユーモアだった。
それだけだった。一度笑った後は、再び役者の口の周りがセメントのように固まったように見えた。
その後は「もう知らないよ」という気持ちになった。肩の力を抜いて画面を眺めていると、眠気に襲われて、こっくり始めてしまった。
◇「暴力的なアクション映画」に思えた
韓国のエッセイアプリ「brunch」に投稿する作家で、自身も聴覚障害者であるミンイ(ペンネーム)さんも、ハングル字幕のない「犯罪都市2」を見て、同じような感想を抱いたという。
ミンイさんは先月31日、「『犯罪都市2』を見て笑えなかった」という文章を書いた。
「序盤が過ぎて人々の笑いがはじけ、夫もそばでずっと笑っていた。最初は私も気になって夫に尋ねてみたが、そのうち、邪魔したくなくなり、それ以上は聞かなかった」
その間、「犯罪都市2」は、ますます暴力的なアクション映画になっていった――というのがミンイさんの感想だ。よくわからず、首を傾げたくなる場面がかなりあったという。
◇残されたさまざまな「問いかけ」
記者の目の前で場面は次々に展開し、気がつけば106分が過ぎていた。映画が終わって、ようやく気分を転換することができた。
マ・ソクトの拳は確かに痛快だった。でも、映画館を出ると、どことなくほろ苦さを感じた。映画館にいた人たちは、みなが笑いながら映画の感想を語り合っていた。
同じ韓国映画を見ているのに、その時間がなぜ、同じように楽しめない人がいるのか。彼らの置かれた環境がなぜ、いままで顧みられなかったのか――笑いとか、余韻とかではなく、記者に残されたのは、さまざまな「問いかけ」だった。
◇バリアフリー映画、選択肢は多くなく
韓国映画でハングル字幕があるのは「カチボム」による作品だけ。いくら探してみても他は見つからなかった。
「カチボム」作品とは、封切り後の韓国映画にハングル字幕と画面解説をつけ、CGVなどの映画館で上映するものだ。韓国聾唖者協会と韓国視覚障害者協会の支援を受けている。
ホームページを見たところ、こうした映画の選択肢は多くはなかった。
先月23日午後2時に、ソウルのCGV江辺で上映されるので、ホームページで予約して行ってみた。平日の昼だった。それでも観客はいっぱいだった。それだけ視聴覚障害者たちが、韓国映画を見る機会が得られないということだとわかった。
映画館に着き、同じように耳栓とイヤホンで音を遮断してみた。
しかし、今回は違った。マ・ソクトやカン・ヘサンのセリフがすべて、ハングル字幕で記され、正確に意味がわかった。
そのうえ、危機的な場面では「緊張感がある暗い音楽」などと、バックグラウンドミュージックにどのような雰囲気のものが使われているのかも字幕で知らされる。戦う時は「ガラスが割れる音」という字幕で効果音もわかるのだ。
こうして改めて感想を語ることができた。「犯罪都市2」はこんなに愉快で面白い映画だったんだ――。他の観客たちと一緒に緊張したり、一緒に笑ったりできる。これがどれほど素晴らしいことなのか、初めて理解できた。
(つづく)
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