韓国航空産業の未来、6カ国が「判断」
日本でもおなじみの大韓航空とアシアナ。韓国を代表する航空2社の合併に注目が集まっています。韓国公正取引委員会が「条件付き承認」の決定を出し、プロセスは「5合目を越えた」と言われています。現状を取材しました。(シリーズ2/6)
◇独占・寡占の発生
韓国を代表する大韓航空が、同じく名の知られたアシアナ航空を合併する。そして、アシアナブランドは消え去る――。
2020年11月、大韓航空がアシアナ航空の株式63.88%(約1兆5000億ウォン規模)を取得する契約を結び、その一歩を踏み出した。2021年1月には、公取委に合併を届け出た。
公取委が検討したのは、両社が統合した場合、業界に関わる市場のシェアはどうなるかだ。
関連市場を▽航空旅客(国際・国内87路線)▽航空貨物(国際・国内26路線)▽航空機整備業――などに分け、それぞれのシェアがどう変化するか、そして、競争制限性(独占・寡占の可能性)はどう評価すればよいのか考えた。
国際線のうち、両社が運営する重複路線が計65ある。公取委は、このうち26路線で独寡占が発生すると判断した。その内訳は▽米州5▽欧州6▽中国5▽東南アジア6▽日本1▽大洋州などその他3――の路線だ。国内線でも重複路線が22あり、うち14で独寡占が発生すると判断した。航空貨物など、他の市場では競争制限性は「低い」、あるいは「ない」という判断だった。
こうした評価に基づき、公取委は大韓航空・アシアナ航空に求めたのは――独占・寡占が発生する路線のスロットまたは運輸権を他社に引き渡すこと――だった。
◇各国競争当局の審査
スロットとは、航空会社別に配分された空港の離着陸時間を指す。運輸権とは、航空機で旅客・貨物を搭載・荷役できる権利を意味する。それぞれ空港当局(仁川国際空港公社など)や各国政府が定期的に分配するものだ。
公取委の要求を受け、大韓航空やアシアナ航空は、他社の市場参入や増便がある場合、自社が保有しているスロットや運輸権を返却しなければならなくなったのだ。
公取委の措置を具体的に見る。
独寡占が発生する国際路線26に対し、国内空港のスロットを移転する▽この26のうち、運航に運輸権が必要な11に対しては、スロットとともに運輸権も移転する▽独寡占が発生する国内路線14のうち、8は国内空港スロットを移転する▽需要が不足する残りの6に対しては「10年間、運賃引き上げ制限」とする――などだ。
また、返却されたスロットや運輸権を、他の航空会社が短期間に取得するのは困難とみて、返還期限を「企業合併日(株式取得完了日)以降10年」とした。
その代わり、返却までの間、消費者が不利益にならないよう▽平均運賃を2019年比の物価上昇率以上に引き上げること▽供給座席を2019年並みの一定比率未満に縮小すること▽無料の機内食など消費者サービスの主な内容を2019年より不利に変更すること▽マイレージ制度を2019年より不利に変更すること――を禁止とした。加えて、M&Aが成立した日から6カ月以内に、両社のマイレージ統合案の提出、公取委の承認を順守させるようにした。
さらにハードルがある。両社のM&Aに対する世界各国の競争当局による審査だ。
審査が必要な国は韓国を含めた計14カ国・地域。このうちシンガポール、ベトナム、トルコ、マレーシア、フィリピン、タイ、台湾の7カ国・地域が韓国より先に審査を終え、承認された。韓国でも公取委が2022年2月22日、条件付きで承認した。
残る6カ国とは、米国、欧州連合(EU)、中国、日本、英国、豪州。このM&Aが最終的に完了するためには、各国の競争当局の承認まで受けなければならない。だが、それが、いつ、どのような決定が下されるのか、見当がつかない状況なのだ。韓国内外の空港を利用する航空業の特性上、一つの競争当局でも「不許可」の決定を出せば、M&Aそのものが立ち消えになる可能性もあるのだ。
EUの場合、まだ「事前協議」の段階。正式な申告されていない状態だ。
企業に対し、直接是正措置を下す韓国とは違い、米欧など多くの国の競争当局は「M&A推進企業が直接示す是正措置案を検討する方法」で審査する。「許可」を得られるかどうかは大韓航空の決定にかかっているということになる。
韓国航空産業の未来は、6カ国の競争当局の判断にかかっている、というわけだ。
(つづく)