「自給自足」「勝利の年」でも終わらない経済難
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は2011年12月、父キム・ジョンイル(金正日)氏の死去を受け、27歳の若さで最高指導者の地位につきました。キム・ジョンウン体制の10年の歩みと今後の課題を考察してみました。(最終回)
◇経済の構造的変化がなければ……
キム・ジョンウン政権になって以後、国際社会による制裁は強まり、北朝鮮の経済難が慢性化することになった。長期に及ぶ制裁で経済状況は悪化し、「キム・ジョンウン式代案」を探し出すのは、まだ先のようだ。
キム・ジョンウン氏は政権発足初期に、経済回復に向けた管理体系を改編するなどの改革を試みた。限定的に市場を認め、経済安定という側面を受け入れたりもした。北朝鮮情勢に詳しい専門家の多くは、キム・ジョンウン政権発足後、「北朝鮮経済が変わった」という点には同意する。初期の緩やかな成長を維持し、対外貿易も急増するなど経済実績は悪くなかった。
だが制裁に加え、新型コロナウイルス感染で自ら国境を封鎖した後、経済状況は悪化している。かつてのようにイデオロギーを掲げて経済の突破口を開こうと努力するものの、既に内部の資源が枯渇した状態での「自給自足」による成長には限界がある。
制裁の影響で、経済問題は構造的な問題として定着してしまった。制裁は2016年にさらに厳しいものとなり、輸出入、労働者派遣、経済協力など経済全般を圧迫する包括的なものに拡大した。
このような状況では、経済難から脱却しようにも、南北間の協力を軸とするだけでは突破できないという点を示している。
米朝首脳会談では、トランプ米大統領(当時)は、非核化を通じて北朝鮮が莫大な経済的利得を得ることができると強調した。トランプ氏は「信じられないほど明るい経済的な未来となる」と主張し、米国側は北朝鮮に対する投資誘致のようなものまで準備ができているとも付け加えた。
裏返せば、既に国連制裁と各国の独自制裁により経済難が積み重なった状況では、北朝鮮経済の構造的変化がなければ、目に見える結果を得ることが難しい、ということでもある。制裁によってすべての活動が事実上中断した状況では、南北間の合意だけで経済を誘引することも、また不可能というわけだ。
◇制裁解除への模索
北朝鮮は、外交によって経済難を突破しようとしたものの、失敗に終わった。現在の経済状況が困難であることを認め、2021年1月の党大会では新しい国家経済発展5カ年計画を発表し、「自力更生・自給自足」をキーワードに据えた。
だが、これも既に限界という評価がある。北朝鮮問題の専門家は、北朝鮮が国家運営の核心に「自力更生」を選んだのは、自発的・積極的な選択というより、現状においてはやむを得ない選択だという側面が強い、とみている。米朝間の核交渉がこう着状態を続け、厳しい制裁が維持される状況で、他の選択肢はなかったという説明である。
今月1日に開かれた朝鮮労働党中央委員会政治局会議でキム・ジョンウン氏は「国家経済が安定的に管理され、わが党が重視する農業部門と建設部門で大きな成果が成し遂げられたのを始め、政治、経済、文化、国防部門など国家事業の全般的な分野で肯定的な変化が起きた」と経済成果を誇示した。
キム・ジョンウン氏は今年を「勝利の年」と位置づけ、その宣言のあと、北朝鮮は連日、この関連の思想宣伝を続けている。だが制裁解除のない経済問題の解決は結局、形式的でしかない。10年を迎えたキム・ジョンウン政権には制裁解除のため繰り出す「次の妙案」が不可欠なのだ。
(おわり)
「金正恩氏の北朝鮮、生き残りをかける次の10年」はnews1のソ・ジェジュン、ヤン・ウナ、キム・ソヨンの各記者が取材しました。