◇定年延長、少子化対策の鍵となるか
政府が定年延長を検討しているのは、少子化に伴う労働力不足への懸念と無関係ではない。統計庁が昨年末に発表した人口予測によると、韓国の総人口は今年5175万人でピークを迎え、その後は減少に転じ、2030年には5131万人、2072年には3622万人に急減すると予測されている。
15~64歳の生産年齢人口は、2022年の3674万人から今後10年間で332万人ずつ減少し、2072年には1658万人にとどまるとされている。一方で、2022年の高齢人口は898万人で、2025年には1000万人を超え、2072年には1727万人にまで増加する見通しだ。この50年以内に高齢人口が生産年齢人口を上回ることが予測されている。
国会ではすでに定年延長を柱とする法律改正案が提出されている。野党「共に民主党」の3議員が「高齢者雇用促進法」の一部改正案を発議している。これらの法案は、事業主が労働者の定年を60歳以上とすることを定めた法律第19条を改正し、定年を65歳まで延長することを主な内容としている。
米国や英国など一部の先進国では、定年が「年齢を理由とした差別」にあたるとして、すでに定年制度を廃止している。米国では1986年に定年が廃止され、年齢が理由というだけでは解雇ができなくなった。英国では、警察のように身体的能力が必要な職業を除き、定年制度が廃止されている。
一方、実際に定年を延長するためには、賃金ピーク制の拡大など、労働市場の賃金体系の柔軟化や、世代間の雇用対立の調整が必要であるとの分析もある。定年延長は事業主にとって賃金負担の増加を意味するため、企業の生産性が向上しない限り、若者向けの新しい雇用創出が困難になる可能性がある。そのため、定年延長時には「5年余分に」働く中高年世代が、生産性の低下分に応じて賃金を一部減じるなどの賃金体系の柔軟化が不可欠とされている。
政府が最近発表した年金改革推進計画で、国民年金の義務加入年齢を59歳から64歳に引き上げる案を検討すると表明したことにより、その前提条件となる法定労働者定年延長法案への関心が高まっている。現行60歳の定年を65歳に引き上げる内容を含む関連法案が、今回の国会で通過するかどうか注目されている。
◇「年金クレバス」
国会の議案情報システムによると、国会では「共に民主党」の3議員が「高齢者雇用促進法」の改正案を代表発議した。この法案は、所管の国会環境労働委員会に回付されているが、まだ上程されていない。
多くの議員が、韓国の高齢化が急速に進んでいるという点を指摘し、定年延長が必要であると考えている。国の65歳以上の人口比率が20%を超えると「超高齢社会」に分類されるが、韓国も2025年には超高齢社会に突入すると予測されている。2017年に65歳以上の人口比率が14%を超えて高齢化社会に突入してから、わずか8年だ。
現行法では定年が60歳であるのに対し、国民年金の受給開始年齢はさらに遅れるため、「年金クレバス」(クレバスとは氷河の裂け目のことを指し、職場を退職してから国民年金を受け取るまでの無収入の期間を意味する)が生じざるを得ないという問題意識を含んだ法案もある。
国民年金の受給開始年齢の現行調整計画によると、受給開始年齢は2023年に63歳、2028年には64歳、2033年には65歳と、5年ごとに1歳ずつ引き上げられる。
ある議員が提出した改正案は「定年に関する適用特例」の付則によって、法改正施行日から2027年まで定年年齢を63歳に引き上げ、2028年から2032年まで64歳、2033年以降は65歳に引き上げるという内容だ。
この議員は、改正案提出の理由について「多くの国では、労働力不足や年金財政、高齢者貧困を防ぐための代替策として、退職者が年金を受け取るまでの間に所得の空白が生じないよう、雇用を延長するなど年金政策と雇用政策を連携させ、定年延長を強制する傾向が強まっている。OECDも最近、韓国に対し、定年制度の廃止と年金受給開始年齢の引き上げを勧告した」と指摘する。
前回の国会でも同様の法案が提出されていたが、任期満了により廃案となった。ある民主党関係者は「定年年齢を法的に一律に引き上げると、企業にとって負担が大きいという現実がある。雇用主と労働者の立場の違いもあり、また企業の規模によっても意見が異なるため、最近では多様な雇用形態が生まれており、このような立法に関しては、まず社会的合意を十分に形成し、確認する必要があるという意見もある」と述べた。
(つづく)
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