特別顧問の面々
韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)次期政権の経済チームの陣容が、引き継ぎ委員会と秘書室の人選で明らかになりました。ユン次期大統領が選択する「経済キーマン」のラインナップを予想してみます。(最終回)
韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)次期大統領のキム・ウネ(金恩慧)報道官が「ユン氏の秘書室の特別顧問として迎える」として名前を挙げたのは次の面々だ。
・産業資源相だったユン・ジンシク(尹鎮植)氏
・韓京(ハンギョン)大総長だったイム・テヒ(任太熙)氏
・国務調整室長だったイ・ソクジュン(李錫駿)氏
・有力紙・中央日報の副社長だったパク・ボギュン(朴普均)氏
・科学技術相だったキム・ヨンファン(金栄煥)氏
・デジタルソウル文化芸術大学総長だったイ・ドングァン氏
・国会図書館長だったユ・ジョンピル(柳鍾珌)氏
この中で注目すべきは国務調整室長だったイ・ソクジュン(李錫駿)氏。経済チームで重用される人物と見られている。
ユン氏が2021年6月、大統領選への立候補を公式に宣言した際、イ・ソクジュン氏は一堂に会した人物だ。広報ラインを除けば、ユン氏が大統領選の陣営を構成し、事実上初めて迎え入れた人物だ。
ユン氏とはソウル大在学時から縁があった。イ・ソクジュン氏(1959年生)は、ソウル大経済学部78学番、ユン氏(1960年生)はソウル大法学部79学番。当時からユン氏はイ氏を「ソクジュンさん」と呼んだという。イ・ソクジュン氏は、ユン氏との信頼関係をもとに、選挙陣営の初期のころ、経済分野の座長の役割を果たしたという。
企画財政省で金融や予算などの経済政策をくまなく扱った正統的な経済官僚――これがイ・ソクジュン氏に対する評価だ。企画財政省第2次官時代、予算と税制を統括し、いわゆる「王(のような)次官」と呼ばれたりもした。未来創造科学省の第1次官にポストを移してからは、パク・クネ(朴槿恵)政権の「創造経済」政策の樹立と推進を主導した。
企画財政省第1次官だったチェ・サンモク(崔相穆)氏らとの共著「経済政策アジェンダ2022」で「負の所得税」政策を提示したことがある。
「負の所得税」とは、所得が一定水準以下の場合、税金を納めるのではなく、所得補助金を受ける制度だ。所得に関係なく、すべての人に一定額を与える基本所得とは少し違う。「負の所得税」を導入すれば、年金改革の際に減る受給額を補完することができるという効果もある。
著書でイ・ソクジュン氏はこう指摘する。
「負の所得税制は大韓民国すべての国民に基本的生活を営むことができる最低保障所得を保障し、一定水準まで所得が増加することによって所得税を還付する形態だ。これを導入するためには直接・間接的に関連する社会福祉制度全般に対する根本的な検討と変化が必要だ」
◇金融政策全般担当
ユン次期政権の「経済ブレーン」はほかにも挙げることができる。
まず、引き継ぎ委員会経済1分科会委員に任命された弘益(ホンイク)大経営学部のシン・ソンファン(辛星煥)教授だ。引き継ぎ委で、資本市場の透明性確保や不動産融資の規制緩和など、金融政策全般を担当するものと見られる。
金融と年金分野に詳しい学者――という評判だ。韓国先物学会の理事や韓国年金学会会長、韓国金融研究院長を歴任し、現在、韓国金融学会の会長として活動している。
次に、西江(ソガン)大経済学部のキム・ギョンファン(金京煥)教授。大統領選でユン氏の不動産公約全般を担当した人物だ。具体的に▽全国250万戸以上の新規住宅供給▽不動産税制正常化などの公約作り――に寄与した。キム教授は、建設交通省中央都市計画委員、韓国住宅学会会長などを歴任したうえ、国土交通省第1次官を務めた実務経験もある。ユン政権の国土交通相候補にも名前が挙がっている。
続いて、ユン選対で福祉政策本部長を務めたソウル大社会福祉学科のアン・サンフン(安相勲)教授。無分別な現金福祉よりは脆弱階層に現金福祉を厚くし、全国民に社会サービスを提供することを骨子とした「社会サービス福祉」を主張したことがある。保健福祉相候補としても有力視されている人物の一人だ。
また、選対で原子力・エネルギー政策分科長を務めたソウル大原子核工学科のチュ・ハンギュ(朱漢奎)教授も主要な人物の1人だ。ユン氏の「脱原発白紙化」などのエネルギー公約を実質的に構想した人物だ。特に、ユン氏が政治入門の過程で、チュ教授のソウル大事務所を訪ね、原子力正常化を論議して親交を深めたという。
経済ブレーンの中で重視されるポストが、金融委員長だ。その候補として名前が上がっているのは、引き継ぎ委経済1分科会幹事で企画財政省第1次官だったチェ・サンモク(崔相穆)氏▽政策特別補佐官に任命されたカン・ソクフン(姜錫勲)教授――だ。
◇労働政策が注目されず
「4%に迫る物価管理」「50兆ウォン規模の零細企業支援」。2カ月後に発足を控えた「ユン・ソンニョル号」が、就任当初から直面する課題だ。韓国国会の「与小野大」という政治構図の中で、こうした難題を解決するのは「有能な経済トップ」の人選なしには事実上不可能だ。
この意味で、経済省庁を老練な手腕で導くことのできる「国民の力」関係者らに関心が集まっている。具体的に名前が上がるのが、副首相兼企画財政相候補のチュ・ギョンホ(秋慶鎬)議員だ。
また、リュ・ソンゴル(柳性杰)、ソン・オンソク(宋彦錫)の両議員も企財省官僚出身で予算室長と第2次官を務めた「予算通」だ。
今回の大統領選で、最も大きな話題に浮上したのが不動産問題だということに見解の相違はない。ユン政権で不動産政策を統括することになる国土交通相候補としては、国土交通省出身でソウル地方国土管理庁長を務めたソン・ソクジュン(宋錫俊)議員が有力候補に挙がっている。
今回ほど労働政策が注目されなかった大統領選はない。ただ、労働分野の注目度が相対的に下がっただけで、労働組合の声が大きい韓国社会の特性上、労働政策の波及力は莫大だ。
特に、ユン氏は週52時間労働制、最低賃金制などに対する全面または一部修正を示唆しただけに、雇用労働省の役割は重大だ。労働相としては、韓国開発研究院(KDI)で研究委員や社会政策研究部長、首席エコノミストをあまねく経験したユ・ギョンジュン議員が下馬評に上る。
産業通商資源相には、国会産業通商資源ベンチャー中小企業委員会の野党幹事であるイ・チョルギュ議員の名前が出ている。イ議員は当選人総括補佐役、いわゆる「尹核関」(ユン氏の核心関係者)として急浮上した。
ユン・ヒスク(尹喜淑)前議員の名前も目につく。ユン氏もKDI出身で、財政福祉分野で優れた専門性をベースに国会企画財政委員会で目立った活躍をした。
(終わり)
「尹錫悦政権『経済キーマン』を展望する」はMONEY TODAYのユ・ソニル、パク・ジョンジン、ソ・ジヌク、アン・チェウォン、アン・ジェヨン、ユ・ジェヒ、イ・ジョンヒョクの各記者が取材しました。
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