犯罪を犯した後、海外へ逃亡。現地で豪華な食事を楽しむ――。ディズニープラスの新作「カジノ」の現実版とも言えるような逃亡劇が、東南アジアを中心に展開された。逃亡先で捕まっても簡単に国には送還されない――という制度的な盲点を狙ったもので、対策が急務だ。
◇映画「カジノ」の現実版
「ゴルフもしてお酒も飲みました。投資を受けて人にも会おうと(タイに)いるそうです。キム前会長から直接聞きました」
先月6日の韓国水原地裁204号法廷。「海外に逃避した(韓国下着大手)サンバンウルグループのキム・ソンテ前会長に会って何をしたのか」との検事の質問に、サンバンウル系列会社代表の男性は証人としてこう答えた。キム前会長は、検察の捜査を避けて海外へ逃亡。余暇を楽しみながら、新たな事業まで検討していたという。
キム前会長は、逃亡先のタイで「本名」を明らかにしており、韓国国内の関係者に電話やテレグラムで連絡を取るほど大胆だった。
キム・ソンテ前会長は、対北朝鮮送金疑惑や、野党「共に民主党」イ・ジェミョン代表の弁護士費代納疑惑などへの関与が指摘されている。8カ月にわたる海外逃避生活の末にタイで逮捕され、同17日に「自主帰国」の形で韓国に送還された。
キム前会長の検挙は、国際的な司法協力強化による貴重な成果と言える。しかし、依然として大手を振っている海外逃亡犯を法廷に立たせるためには、しっかりとした責任追及体制を組む必要があるとの指摘が出ている。
◇最大の逃避先はフィリピン
韓国警察庁によると、2018年から昨年8月まで海外に逃走した国内犯罪者は計3781人に上る。2018年は579人だったが、2019年は927人、2020年は943人、2021年は953人で、ほぼ2倍近く増えている。昨年は8月までに379人が海外に逃走した。
タイで検挙されたキム・ソンテ前会長や、現在も逃亡中の「テラフォームラボ」のクォン・ドヒョン代表もここに含まれる。クォン代表は、暗号資産(仮想通貨)テラ・ルナ暴落事件の中心的な犯人として名指しされ、その後セルビアに逃亡しているとみられる。
こうした逃亡者を罪名別に見ると、詐欺が1854人で犯罪全体の半分を占める。次に賭博が565人(15%)で、麻薬200人(5%)や暴力(4%)、横領背任(4%)、性犯罪(3%)が続く。
昨年1~7月の間に、韓国国内に送還された海外逃避事犯を国別で見ると、フィリピンが56人(27%)で最も多い。続くのはベトナム39人(19%)、中国36人(17%)、タイ25人(12%)、カンボジア10人(4%)などだ。フィリピンは典型的な逃亡先と言え、映画「カジノ」でも詐欺を犯した犯人がフィリピンに逃れ、現地で検挙されて送還される。
通常、犯罪を犯した後、海外に逃亡した場合は、公訴時効が停止するが、密航で出国記録を残さずに出た場合は国内に滞在するものとみなされ、時効停止規定は適用されない。この「利点」をついて処罰を避けた犯人が2018年に1万人を越えた。
◇懲役刑宣告逃亡犯も
捜査中に逃走するケース以外にも、裁判所で実刑を受けた後、刑執行を避けて逃亡するケースも増えている。
家電量販店「ハイマート」のソン・ジョング元会長は、会社に1700億ウォン規模の損害を及ぼしたとして背任罪に問われた。2021年8月、破棄差し戻し審で懲役5年の刑を宣告されたが、それまで在宅起訴状態だったため、米国に出国して行方をくらました。
昨年3月、韓国最高裁の再上告審で懲役5年、罰金300億ウォンが確定したが、検察は刑執行のためにソン元会長の所在を把握し、出国の事実が判明した。
ソン元会長のケースでは、裁判所は、実刑宣告後も不服申し立ての機会を与えるという理由から、身柄を拘束しなかった。検察側もこれに配慮し、出国禁止を要請しなかった。ソン元会長はこうした、司法の「配慮」を悪用したとも言える。
最高検察庁によると、ソン前会長のような自由刑未執行者は2021年5340人で、2017年4593人、2018年4458人、2019年4413人、2020年4548人、2020年4548人に比べて700~800人増えた。法曹界では新型コロナウイルス感染の大流行以後、在宅起訴裁判が増えたのも自由刑未執行者増加の原因と見ている。
ソン元会長は、逃亡中も代理人を通じ、進行中の622億ウォン規模の贈与税還付訴訟にかかわり、議論を呼んでいる。
2021年12月の1審に続き、昨年11月に出た2審勝訴判決が最高裁でそのまま確定すれば、国税庁は、ソン元会長が子供名義で取得したハイマート株式に賦課した上場差益贈与税622億ウォンをそのまま返還しなければならない状況だ。
ソン元会長は、かつて保有していたザ・プレイスCCゴルフ場と各種不動産も全て売却した後、海外に移転したという。豪華な逃亡生活が話題となったキム・ソンテ前会長以上の優雅な海外生活を送っているとみられる。
捜査当局は、国税庁や関税庁、金融情報分析院(FIU)と連携し、海外逃亡者の検挙と並び、不法・隠匿財産の把握・回収に力を入れている。しかし、こうした財産は複雑な債権債務関係が結ばれているケースが多く、回収が容易ではない。
韓宝グループのチョン・テス前会長の四男チョン・ハングン氏が、数百億ウォンの会社資金を海外に流出させ、偽造パスポートで出国した。犯行から21年ぶりの2019年に検挙された時も、不法財産を回収するのに相当な手間がかかった。
(つづく)
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