企業から個人中心へ
現実空間とデジタル仮想空間が一つになるメタバースの世界。大多数の企業が今、自社サイトを持つように、今後それぞれの「メタバース環境」を構築するという将来像も語られています。AI仮想人間とメタバースの現状と展望を3人の専門家に読み解いてもらいました。(シリーズ2/計3回)
《座談会参加者》
・パク・ジウン 「False 9」代表
・チョン・ジフン 「みんなの研究所」最高ビジョン責任者(CVO)
・キム・ガヒョン 韓国第1号TikToker/「ニューズ」代表
◇仮想人間に対する倫理問題
チョンCVO 新たな技術が社会に受け入れられるプロセスを見れば、初期は性能が中心となる。その後、思いもよらないことが起きて、社会的に受け入れられやすくなる。スタートアップの「スキャッターラボ」が開発したAIチャットボット「イルダ」の問題なんかも、技術開発の段階ではまったく考慮に入れられていなかったはずだ。今後もまた、さまざまな問題が起き、それを正しながら社会的に受け入れられていくというプロセスを経ることになるだろう。企業も内部で問題を検討できるよう組織を整える必要がある。政府が乗り出して規制し、罰金を科すなどの措置は避けるべきだ。
キム代表 仮想人間は傷つかない、だから悪質な書き込みをしてもいい、という考えが基本的にある。当たり前だが、悪質な書き込みが繰り返されるというムードができあがってしまえば、それを眺める人々にも良くない影響を及ぼす。仮想人間は実際の人間ではないが、一定のタイミングで社会が「AI倫理」のような規範を作らなければならない。
パク代表 仮想人間には人権はないが、公の場にさらけ出され、人々が違和感を抱きかねないような侮辱を受けた場合、その行為は処罰対象になると思う。性の商品化などの対象にされれば、社会全般に悪影響を及ぼすだけに、そうした状況をしっかり取り締まり、場合によっては罪に問うこともできると思う。
◇メタバースが話題になったわけ
チョンCVO 情報技術(IT)の歴史を見れば、大きな変化は10~20年サイクルでやってきた。1回目がパソコン、2回目がスマートフォン、そして3回目がメタバースだ。技術開発も大事だが、ハードウェアの幅広い普及のほうがはるかに重要だ。Microsoft、Intel、Google、NAVER、Amazon、Appleなど、それぞれが引き起こそうとする変化に合わせたハード・ソフトウェア企業が成長した。現在は、無線のインターネット帯域幅が広くなってTikTokやYouTubeなどの動画に移行し、企業から個人が中心の時代になった。
1~2回目のサイクルが、企業を中心とした全般的なデジタル転換であったとすれば、今回はデジタル世界が現実に入ってくるということと、デジタル世界に現実世界が介入するという二つの方向性が進んでいる。このような一連の産業と現状を総称して「メタバース」と呼ぶ。メタバースは「巨大な変化の流れ」と見るべきであり、それをしきりに「何か」と規定するのは時代錯誤だ。
キム代表 仮想現実(VR)が注目された時代もあり、AIが脚光を浴びる時代もあった。ブロックチェーンが話題になった時もある。それらが集まってメタバースになった。米マーベル・エンターテインメントの映画「アベンジャーズ」に似た感じだ。「アイアンマン」「キャプテン・アメリカ」など個別のシリーズが出た後、「アベンジャーズ」が出て大ヒットしたように、VR、AIなど基盤となる技術が注目された後、メタバースが出た。新型コロナウイルスという要因も欠かせない。「非対面への素早い転換」が促されるような時代が、メタバースへの流れをより加速させた。
◇メタバースの市場性
チョンCVO メタバースの市場規模を問うのは「インターネットが作り出した市場規模がどれくらいか」というのと同じような質問だ。今、自社サイトを作らない会社があるのか? みんなが使うようになるという「文化的な変化」を金額に置き換えて推算することはできない。産業の種類や形態によってもまちまちだ。ハードウェアの販売量だけに着目すれば推算できるかもしれないが。メタバース時代では、ネットワークと連結して何かをする企業であるなら、すべて変化の対象となる。
キム代表 メタバースのビジネスの可能性は、NFTがある程度、立証したのではないか。NFT芸術作品が、オフラインより高い価格で落札されたケースが多い。芸術品だけでなく、Twitter創業者のツイート1行が33億ウォンで売られたりした。MZ世代は、現実には夢に見ることさえできないようなソウル・江南(カンナム)の物件を、仮想現実で所有するということに大きな意味を持たせている。このため業界はいかにコンテンツをIP事業化できるか関心が高い。
チョンCVO 現実社会でグッチ(GUCCI)のバックを持ち歩くより、デジタル世界でのグッチバックアイテムの方が、より人の前に露出されることになる。「物質として存在しないラグジュアリー・アイテム」に、本質的な価値があるということだ。他人に自慢したいという願望があるなら、これを購入してもおかしくない。メタバースの中でビルを買おうという人が出てくるだろうし、デジタル整形外科医などの専門職も誕生するかもしれない。
(つづく)