「1兆売上」もつかの間、イニスフリーのピンチ
世界最大の化粧品激戦地・中国。これまで優勢だった韓国産を、急成長する中国産が脅かしています。「韓流禁止令」や新型コロナウイルスの感染拡大、共同富裕――激変する中国市場で、「K-ビューティー」はどう「C-ビューティー」と競い合うべきか、その生き残り戦略を検証しました。(シリーズ4/6)
「イニスフリー(Innisfree)の家族の皆さん。1兆ウォンの売上達成を心よりお祝い申し上げます。今、この瞬間にもアジアンビューティーで世界を美しく変化させている皆さんの、元気な挑戦を一緒に応援します」
韓国の化粧品メーカー「アモーレパシフィック」のソ・ギョンベ会長は2016年、イニスフリーの総売上1兆ウォン突破を記念し、役職員に対しこんな書簡を発表した。しかし、売上1兆ウォンの喜びもつかの間、韓流禁止令を経て、イニスフリーは中国市場で急な下り坂に入った。
アモーレパシフィックグループの3世で、将来の会長であるソ・ミンジョン課長が、グループが生き残りをかけて育てたブランドが「イニスフリー」だ。だが、グローバル情勢と中国化粧品市場の激変の中、危機を迎えている。
◇中国戦略の失敗
アモーレパシフィックグループは2016年11月、イニスフリーの売上1兆ウォン突破を明らかにした。
イニスフリーは韓国国外での売上比率が35%に達するグローバルブランドに成長し、単一ブランドショップの中で初めて、1兆ウォンクラブに名乗りを上げた。中国人観光客が明洞(ミョンドン)に押し寄せ、路面店での化粧品販売が最盛期を迎えた2016年、イニスフリーの国内売上高は7679億ウォン。歴代最高を記録した。
だが、栄光もつかの間、最新鋭迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」配置による中国内の韓流禁止令発動で、この時期を頂点に売上が落ち込み始めた。
イニスフリーは、ソ・ミンジョン課長が株式18.18%を保有し、2大株主になっている会社だ。中国人が好む観光地・済州島の自然主義を掲げたイニスフリーは、中国市場で2016年まで、順調に高成長した。
だが、韓流禁止令でK-ビューティーが苦境に立たされ、中国のローカルブランドと日仏米のブランドが勢いを増してきた。特にイニスフリーが強かった中・低価格の化粧品市場で、百雀羚、カーズラン(CARSLAN)、完美日記など、愛国心の後押しを受けたC-ビューティーブランドの躍進が目立った。
中国の流通チャンネルがオンラインに急激に転換されると、ビューティー業界では「電商(デジタルマーケティング)」が重視され、「淘宝」「小紅書」などのオンラインショッピングプラットフォームで「直播」(ライブ放送)が注目され始めた。完美日記をはじめとする中国の愛国心で武装したC-ビューティーブランドの現地密着型デジタルマーケティングに、オフライン中心のイニスフリーは追いつかなかった。
イニスフリーは、中国のオフライン市場でも流通の変化に適応することに失敗した。「ドッツクリエイティブ(DOT Screative)」のチョン・デヒョン代表はこう指摘する。
「2017年以降、中国の化粧品流通市場は『The COLORIST』や『WOW Color』など、ビューティのマルチショップ中心に再編され、このプロセスで単一ブランドショップは売上不振となり、撤収せざるを得なくなった」
2019年に607店舗に達した中国のイニスフリーは、2020年には483店舗に急減、2021年も閉店が続き、?年の第2四半期(4~6月)末に397店舗まで減った。イニスフリーは2016年以降、海外売上を公開していないが、監査報告書では国内売上高は2020年は3486億ウォンで、4年前の半分となっている。
◇「イニスフリーを捨てるべきだ」
雪上加霜(災難や不幸などの悪い出来事が次々と続いて起こる)――2020年は新型コロナウイルスがビューティー業界を襲い、イニスフリーの売上は大きく落ち込んだ。2020年の売上高は37%減、営業利益は89%に急減し、70億ウォンで赤字をかろうじて免れた。2016年に営業利益が1965億ウォンに達していたのに比べ、5年で96.4%減ったことになる。
2020年上半期、中国で電子商取引各社が参加する大規模セールキャンペーン「6.18」で、イニスフリーの売上は前年比20%以上減だった。マーケティング費用を注いだものの、C-ビューティーの中・低価格ブランドとの競争で勝てなかった。
落ち目のイニスフリーのため、アモーレパシフィックグループは支援を惜しまなかったが、劣勢を挽回するには至らなかった。2020年からアモレパシフィックグループの海外売上高1位ブランドは「雪花秀」となり、イニスフリーはその座を譲ることになった。
証券アナリストは「アモーレパシフィックグループはイニスフリーを捨てるべきだ」と指摘する。
だが、ソ・ギョンベ会長の後継者であり、グループを引き継ぐソ・ミンジョン課長が大株主になっているイニスフリーは、グループにとって捨てることのできない「痛い指」なのだ。
ハナ金融投資アナリストのパク・ジョンデ氏はこう指摘する。
「アモレグループの中国戦略は2020年から全面修正され、オンラインとラグジュアリーブランドを中心に添えるという立場が明確になった。中国の中・低価格化粧品市場は、現地ブランドが掌握したため、イニスフリーのような単一ブランドでは対応が難しい。そう考えて、オフライン店舗の閉店を続けている」
(つづく)