◇「リアル」を超える
オンラインゲームを進化させるため、さまざまなテクノロジーが生み出され、より高い利便性を求めて模索が続く。その一つが先の章でも触れたメタバースだ。その状況を川口氏は次のように振り返る。
「メタバースといえば、3次元コンピュータグラフィックスで構成された『Second Life(セカンドライフ)』のような仮想空間のシステムがある。オンラインゲームにも同様に、多くの人が集まる街やフィールドなどの仮想空間がある」
オンラインゲームでは、一つのサーバーで数百人、数万人が一緒にプレイするという形式があった。データのやり取りが速くなれば、よりリアルなゲームができるようになる。その空間の概念が切り離され、『メタバース』という形で進化していった。
たとえば、球場に行かなくても、実際のように野球をプレイする感覚になるかもしれない。ゲームでは「リアル」を超える、われわれがそれまでに体験しえなかった世界が生み出されるかもしれない。
「サッカーは11人対11人でプレーするのが基本だが、今後はオンライン上で『200人サッカー』も可能になるだろう。試合の方法・ルールを模索するうち、形を変えたeスポーツが生まれる可能性もある」
加えて、手足を動かすデバイスの進化が見込まれるため、身体能力、年齢、性別に関係なく、そうしたオンラインゲーム内で高いパフォーマンスを発揮できるようになるかもしれない。体を動かさなくてもスポーツができるということになれば、障害者にも多様な機会が生まれる。実際、障害者のためのデバイスの開発が持ち上がり、さまざまな実証実験が進められている。
◇教育用シミュレーター
韓国ではメタバースを使ったシミュレーションがさかんだ。手術から消防訓練まで、さまざまな場面を想定した訓練に転用されている。
人間が入り、そこで移動するという仕組み――それはオンラインゲームから始まっている。
川口氏によると、オランダでは10年ほど前から、社員教育などに「シリアスゲーム」(娯楽性だけでなく社会問題の解決を目的とするゲーム)を使う企業が増えている。日本でも「電車でGO」「フライトシミュレーター」が鉄道や航空各社の社員教育に使われ、上場前の企業が監査役にシミュレーションゲームを思わせるような試験を施すなどの例はあるという。ただ、「ゲーム」ということで、その仕組み自体が軽視され、普及は限定的だという。
◇AIによる代替
オンラインゲームの製作を費用面で見てみる。
川口氏によると、そのプロセスは▽プログラム▽グラフィック▽ゲームシナリオ進行▽音楽――などのセクションに分かれ、それぞれを統括するディレクターが配置される。各セクションの業務は、専門企業が独立して手掛けることになる。
最も費用がかかるのは、プログラムとグラフィックだ。
「デバイスの性能が向上すると、よりリアルなグラフィック制作が求められる。キャラクターの髪が風になびくとか……。ハリウッドの映画と全く同じだ。それがあるからこそ、没入感が生まれる。しかし、これまで以上に人手がかかる」
製作費でみれば、「大作」と呼ばれるゲームがある。開発に30億円以上がかかり、プロモーションにも10億円以上を費やす。つまり、30億~40億円を投じなければ勝負できないという業界になっている。
「開発会社はプログラマーやグラフィックで多くの人材を抱えている。そのコストはプログラマー1人で月70万~80万円。数十人くらいかかえて製作することになるため、それだけで何十億円の経費になる」
日本の映画製作の規模を飛び越し、ハリウッド映画並みの資金が求められる。川口氏は「世界展開する場合、そこまでかけないと、競合する海外のゲーム会社に勝てない」と考える。
一方で、オンラインゲームの製作現場でも、人工知能(AI)を活用した経費削減、効率化、低コスト化が多くの企業で検討されている。特に韓国ではAIを多用し、作画や色、アニメーションの作業を次々にAIで代替し、技術者を減らしているという。
川口氏は「コスト軽減だけでなく、AIに任せた方が早く作り上げることができる。10億円、20億円といわれた大作も、半分ぐらいのコストできる可能性がある。そのうちオンラインゲームのプログラムの大部分もAIが作ってしまうかもしれない。事業活動の合理化を考えている経営者として最も関心のあるところ」と見通す。(おわり)
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