◇けん引したのは「日本経験者」
韓国でオンラインゲーム開発に日本でのゲーム開発経験者も関わっていた。1980年代後半に日本のゲーム会社で働いていた韓国人の元スタッフたちだ。それに加えてゲーム会社の社長や開発責任者の相当数が日本のゲームファンだった。
「だから韓国のオンラインゲームに日本のテイストが入っている。キャラクターも日本的なものが多い」
2002~06年に、オンラインゲームの調査で数度、韓国を訪れていた川口氏はこんな印象を持つ。
川口氏によると、この傾向は韓国に限らない。アジアを中心とした少なくない国・地域のゲーム開発の中心的役割を果たした人材には「実は日本のゲームが好きだった」と口にする人が意外と多かったという。台湾のあるゲーム開発会社のトップは「『ドラゴンクエスト』で日本語を覚えた」と明かしている。
オンラインゲームに日本の影響は無視できない――これが川口氏の見解だ。
「ゲームのシステムは米国で構築され、日本が創意工夫して独自のものを開発した。それをベースに韓国がオンラインゲームを作り、さらに中国がそれにならっている」
川口氏によると、テレビドラマやK-POPなどの輸出の方式も、オンラインゲームがモデルになっているといえるそうだ。
その一例として、川口氏はアニメ制作を引き合いに出した。
「アニメも米国で生まれ、日本はそれに独創性を持たせた。システムは米国で構築され、細部は日本が肉付けしている。それが今や米国にも影響を与えている。1970年ぐらいから日本のアニメ会社が韓国、台湾や中国など東アジアの会社に制作を外注していた経緯があり、それが今の各国・地域のアニメ制作のベースになっている」
アニメの動きを精緻にした技術――それはオンラインゲームにも脈を通じるものがあるという。
◇コンソールゲーム市場の差
ただ、オンラインゲームに限れば、日本は今、韓国や中国に後れを取っている。
韓国でオンラインゲームが流行していた時期、日本では依然、コンソールゲームの作品が次々に発売されていた。コンソールゲームは1980年代中ごろ、ゲーム市場を席巻していた形式だ。
コンソールゲームが主流だった1990年代後半の日本では、PCでゲームを遊ぶユーザーは限られ、オンラインゲームの普及は思ったほど進まなかった。
特定のゲームのプラットフォームに慣れているユーザーは、他のプラットフォームに移行しにくい――この「経路依存性」の特性がオンラインゲームの前に立ちはだかった。
コンソールゲームは専用のコントローラーによる操作だが、オンラインゲームはPCのキーボードとマウスを駆使する。コンソールゲームのユーザーは、PCの操作になかなかなじめないのだ。
一方、韓国では、オンラインゲームの競争産業といえるコンソールゲームの市場が確立されていなかった。「コンソールゲーム市場の不在」という状況は、韓国で新規産業だったオンラインゲームの普及には好都合だったのだ。
日本では国内のオンラインゲーム作品が少なく、多くのゲーム運営会社は韓国の作品を輸入(ライセンスイン)してサービスを展開していた。
2000年代前半、日本ではブロードバンドがどのようなビジネスとして発展するか見通せなかった。日本のIT企業の多くが韓国の事情を調べ、その成長の度合いを注視していた。川口氏もその一人だった。(つづく)
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