「私だけがみすぼらしい」
韓国で今、就職難や家庭不和、いじめなど多様な理由で、部屋のドアを閉ざしてしまういわゆる「隠遁型一人ぼっち」(ひきこもりを表す韓国語)が増えています。実情を探りました。(シリーズ1/4)
◇1週間で家族との対話は10分未満
「透明人間になりたかったです。後ろ指を差されたようで……」
今年25歳(1997年生まれ)になったチェさんにとって、この4年間は、真っ暗な箱の中に閉じ込められてしまったかのようだった。12平方メートル足らずの部屋の中でドアを閉じ、彼は外に出てこなかった。家族と一緒に暮らしていたが、1週間に両親や兄と対話する時間は10分以上にはならなかった。
「昼食、夕食のことを聞く時ぐらいは話をした。ひどかった時には、そんな会話さえできず、母親にメモを渡して答えたこともあった」
チェさんはこう打ち明けた。
トイレに行く時間を除き、チェさんが唯一、外に出るのは日が暮れた後だった。それさえも家族が外出した日を選んだ。
「黒いキャップとマスクで『武装』し、コンビニにおやつを買いに行くのが、ほとんど、唯一の外出だった。部屋では横になっていたり、携帯電話を見たり、ゲームをしたりした」
動かないから食欲があるはずもない。食べたのは1日1食程度だった。
◇原因は「いじめ」「学業・就職の失敗」が多く
チェさんのような青年を「ひきこもり」と分類する。
ここ数年、10~20代の青少年・青年の中で孤立を自認する人が増え、「孤立青年」「隠遁青年(ひきこもり)」という単語もできた。
通常、現場では経済的、心理的困難によって孤立感を覚える人々を「孤立青年」、そこから一歩進んで部屋の中から出てこようとしない人々を「隠遁青年」と呼ぶ。だが、正確に孤立・ひきこもりが何人いるのか、統計さえない。
引きこもるきっかけはそれぞれで異なる。なかでも「いじめ」や「学業・就職の失敗」を経験した人は多い。
チェさんの場合は「大学入学失敗」だった。最初の失敗は18歳だった高3、2回目の失敗は19歳だった浪人時代、3回目は大学に通いながら「三半修(三修+半修)」をしていた時だった。(三修は日本語で2浪、半修は「大学に通いながら入試をやり直すいわゆる「仮面浪人」を指す)
「兄は勉強ができた。だから私に対する両親の期待も大きかった。それに応えなければならないという負担があった。そして失敗が繰り返され、無気力さに捕らわれた」
チェさんはこうため息をついた。
三半修に失敗し、6カ月ほど学校に通った後、休学し、結局、退学した。
◇福祉の対象に
部屋の外に出る努力をしなかったわけではない。2年前、親の知人が紹介した相談センターに行って治療を受けたりもした。
しかし、1カ月も経たないうちにチェさんは再び部屋にこもった。
「他の人は大学を卒業し、就職の準備をしている。なのに私だけが治療を受ける姿がみすぼらしく感じられて……」
幸い、チェさんは昨年末から、少しずつ世間と交わっている。もう一度勇気を出し、相談センターを訪ねた。同時に、精神科での薬物による治療も並行している。
実は、チェさんを部屋の外に引っ張り出した最大の力は、母親の理解、それに称賛だった。「むやみに対話するより、達成感を覚え、自尊心を回復することが、何よりも重要だった」。チェさんはこうふり返った。
ひきこもりの問題は、これ以上、個人の努力に委ねるべきではない――専門家はこう強調する。
「若い人たちは、厳しい競争社会に置かれ、自分のことを肯定しにくくなっている。そんな状況に若い人を追い込んだ責任は社会にもある。引きこもっている人を、生産年齢ではなく、福祉の対象として対策を講じなければならない」
湖西大青少年文化相談学科のキム・ヘウォン教授はこう訴える。加えて、就職支援などを中心とした政策によって、自信を高め、社会性を育てるプログラムから整備しなければならないと助言した。
(つづく)
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