
日本と韓国で事業を展開するロッテが、日本の観光と健康を軸に新たな挑戦を始めている。舞台は新潟県妙高市の「ロッテアライリゾート」。韓国流ホテル経営のノウハウと地域資源を掛け合わせ、ウェルネスツーリズムという新たな観光価値を生み出そうとしている。日韓の「ロッテ」の力を融合し、日本の地方創生に貢献しようという、その戦略とは――。【KOREA WAVE編集長 西岡省二】
◇日韓協力で新たな成長機会
ロッテは日韓双方で高い知名度を誇り、両国を中心にグローバル展開する。ただ、同じロッテでも、日本と韓国では事業内容は大きく異なる。日本が国内中心の「菓子メーカー」であるのに対し、韓国は小売、建設、ホテル、化学など多角経営の巨大グループで、韓国経済の中核を担っている。
日韓関係でいえば、2025年は国交樹立から60年の節目となる。韓国が保守派のユン・ソンニョル(尹錫悦)前政権だったころ、日韓関係は大きく改善した。だが6月の政権交代で、対日強硬発言を繰り返していた進歩(革新)系のイ・ジェミョン(李在明)大統領が就任し、両国関係の先行きを懸念する声も上がった。ただ、そのイ・ジェミョン氏は就任後、「実用外交」を掲げて安全保障や文化交流などで日本と連携していく考えを強調している。
日韓関係が果たして安定軌道に乗るのか、政財界の関係者は固唾をのんで見守っている。
他方、両国の国内に目を向けると、両国は産業構造や少子高齢化など、抱える課題が共通する。両国の経済界からは「協力すれば、互いの弱点を補完でき、新たな成長機会を創出できる」と、連携を促す声も上がる。
日韓を取り巻くこうした状況を、いかにビジネスに結び付ければよいか。ロッテによる一つの試みが日本側で示された。

◇相乗効果
ロッテグループは今、世界約30カ国・地域において幅広い領域でビジネスを展開している。
第二次大戦後間もない1948年、ロッテグループは東京で創業した。手作りによるガムの製造・販売から始まり、1964年にチョコレート事業に参入して総合お菓子メーカーで発展し、一定の成功を収めた。
創業者で韓国蔚山出身の重光武雄氏は当時、経済的に苦しい状況にあった祖国に目を向けた。韓国政府からの要請もあって、韓国への投資を始め、1967年、韓国にロッテ製菓を設立した。1979年にソウル中心部でロッテショッピングやロッテホテルを開業する一方、食品、流通、ホテル・観光業に加え、金融、化学といった製造業などに進出した。
日本と韓国に本社機能を持つロッテだが、売り上げ規模でいえば、韓国は日本円で約8兆円と日本(4000億円弱)の約20倍だ。日本が菓子を中心としているのに対し、韓国は「非常にダイナミック」(ロッテホールディングスの玉塚元一社長)な事業を展開している。
「韓国と比較すれば、日本の事業規模は大きくない。ただ、これからすごいチャンスがあると思う。菓子・食品の領域に加え、先端技術とバイオ医薬品、ファインケミカル、データセンターなど、韓国が先んじて取り組んでいる事業と、日本の状況を『掛け算』をしながら事業展開していきたい」
玉塚社長は7月8日にアライリゾートで開いた記者発表会で、こう打ち上げた。
この時、玉塚社長が強調したのは「ONE LOTTE」。日韓は「ロッテ」という同じグループだ。日韓にまたがって、アジア、アメリカ、ヨーロッパに広がるグローバルカンパニーとして動いている。だが経営は、日韓がそれぞれ別に担っている。
「私がロッテグループに来たのは4年前だが、それ以前は(日韓での)人の連携が少なく、非常にもったいないと感じた。日韓の壁を取っ払って一体感を出したい」
玉塚社長はこう意気込んだ。

◇ホテル事業
玉塚社長が記者発表会で時間をかけて説明したのは、韓国におけるホテル事業のグローバル展開だ。
ソウル・明洞にロッテホテルがオープンしたのは1979年。その後、ホテルの展開を進め、2017年にはロッテワールドタワー(555m)を建て、その76~101階に「シグニエルソウル」というラグジュアリーホテルを立ち上げた。
2018年に1万室を達成して韓国最大のホテルグループに成長し、2024年の時点では拠点は37カ所、1万2500室の規模になった。62%は韓国、日本は4%、アメリカ12%、東南アジア14%、ヨーロッパ8%という割合になっている。
「韓国は日本以上に少子高齢化が進み、人口が減っている。国内市場の成長には限界がある」
玉塚社長はこんな認識を示したうえで「日本はやはり面白い。文化的にもユニークで、治安も良い。インバウンド、ホテル事業ではまだ期待できる」と強調した。
ここで注目をするのが「リゾートコンセプト」。そのモデルケースといえるのが、アライリゾートというわけだ。

◇ウェルネスツーリズム
「ロッテアライリゾート」は2017年12月16日にオープンした。自然の地形を生かしたスキー場やレジャー施設、ホテルを併せ持つ大型リゾート施設だ。韓国のホテル大手「ホテルロッテ」が100%出資する「LOTTE Hotel Arai」(妙高市)が運営する。
ここはかつて、ソニー関連会社や新井市(当時)などが出資して1993年に開業したリゾート施設だった。スキー場のほかショッピングモールなども備え、最盛期には年間20万人の集客があった。
だが、景気低迷で2006年に営業を停止した。2015年に公売にかけられ、ホテルロッテ側が18億円で落札して全面的にリニューアルした。
この「アライリゾート」を起点に、ロッテホールディングスは日本国内におけるホテル事業の拡大に向けた多様な事業を計画している。ホテルロッテの海外ネットワークをうまく生かし、世界各地から通年で誘客を図りたい考えだ。
その際、掲げるキーワードが「ウェルネスツーリズム」。「wellness(健康)」と「tourism(観光)」を組み合わせた概念で、旅を通して心と体のバランスを整え、リフレッシュする観光スタイルだ。アライリゾートでの記者発表会は、妙高市との「ウェルネスツーリズムに関する包括連携協定」に関するものだった。
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