
別の臨床心理士であるチョン氏は、地域のスーパーへ向かった。自殺手段として悪用される可能性のある物品がどこに陳列されているかを確認するためだ。
その物品を最近売ったことがあるか――チョン氏が尋ねると、店員は「売ったことはない」と答えた。チョン氏は「購入者がいれば、何のために買うのか尋ねてほしい」と頼んだ。
陳列棚へ移動して、その物品がどの位置にあるかもチェックした。目立たない隅に置かれていれば、それは模範的といえる。
チョン氏はスーパーを含め、5店舗を回って自殺予防モニタリングチェックリストを記入し、各店の代表から確認の署名をもらった。
やるべき業務は山積みだが、店舗関係者と雑談を交わす時間は欠かさなかった。自殺未遂が疑われる事例に接することのある店主らの協力を得るには、日頃から親密な関係を築いておく必要があるからだ。
チョン氏は相談者20人のケース管理を担当している。
「以前相談していた方が亡くなったという知らせを受けた時は、とても大きな衝撃を受けた。感情的に非常に苦しい。人件費があまりにも少ない。この問題が解決されなければ、職員の長期勤務は難しい。相談者の立場でも、いつも会っていた人に継続して会えるほうが助けになる」
チョン氏はこう訴えた。
◇過労と不安に苦しむ相談職員たち…劣悪な待遇で退職頻発
過労に苦しむ臨床心理士はキム氏やチョン氏だけではない。全国の自殺予防の最前線で、同じような日常が繰り広げられている。
首都圏のある基礎センターの職員A氏が担当する自殺者遺族は40人に達する。センター職員は「自分の相談者が自殺してしまうのでは」という不安を常に抱えながら生きている。命を救うという使命感だけで、過酷な業務に耐えているのが実情だ。
実際、臨床心理士(未資格の精神保健専門要員)の待遇は非常に悪い。
保健福祉省が定めた2025年の精神健康福祉センター従事者の基本給支給基準によると、臨床心理士の初任給は月228万200ウォン(約24万1265円、税引前)にすぎない。今年の最低賃金基準の月給より約20万ウォン(約2万1160円)多い程度だ。日常的な過労や心理的圧迫などを考慮すると、到底十分とは言えない。こうした劣悪な待遇のせいで早期退職が頻発しており、新人が研修だけ受けて辞めてしまうケースも後を絶たない。
現場は倒れる寸前だというのに、韓国政府は新たな自殺予防事業を現場に下ろし、実績を要求してくる。業務量と複雑さがさらに増し、重点業務であるケース管理の量・質ともに低下している。
ある精神健康福祉センターの職員は「保健福祉省や生命尊重希望財団から下りてくる事業を推進し、実績まで出さなければならないため、ケース管理業務の比重が小さくならざるを得ない。さまざまな業務を1人の職員がこなしているせいで、自殺予防サービスの質が低下している」と吐露している。
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