選択オプションを増やせ
仕事をしながら休暇も同時に楽しむ「ワーケーション」(Work & Vacation)が新たな福利厚生として脚光を浴びています。休養地に拠点となるオフィスと宿舎を整え、交通費や生活支援金まで提供する企業もあります。韓国での現状を取材しました。(最終回)
◇「金の価格」になった開発者の人件費
IT業界でワーケーションが最も盛んなことについては、最近激しくなっている人材スカウト競争と無関係ではないという分析が出ている。
新型コロナウイルス以後、IT開発者の人件費は文字通り「金の価格」である。
最も代表的なネイバー・カカオの場合、昨年の人件費が連結財務諸表でそれぞれ1兆1958億ウォン、1兆158億ウォンを記録した。前年比32.2%、42.8%の増加だった。
本社の職員1人当たりの平均報酬もネイバー1億2915万ウォン、カカオ1億7200万ウォン(ストックオプション除外時8900万ウォン)で、年俸1億ウォン時代を切り開いた。
ある業界関係者は「人件費の上昇とともに、福利厚生の差別化競争が激しくなったことが、ワーケーションがブームになった理由だ。ワーケーション、ワーク・ライフ・バランスなどが重視されたため、企業もそのような要求に合わせて人材競争を繰り広げているようだ」と解説する。
◇ワーク・ライフ・バランス阻害の恐れ
ワーケーションに対し、皆が双手を挙げて賛成するわけではない。新型コロナ初期、在宅勤務をめぐって浮き彫りになった勤怠管理や業務効率性などに対する懸念が再び提起されている。
こうした管理者の立場だけでなく、一般職員の間でもワーケーションに対する好ましくない見方が存在する。
ジョブコリアは、ワーケーションアンケート調査で、否定的な評価を下した少数グループ(14.8%)の意見も聞いた。
その中で最も多かったのは、意外にも「休養地で働きたくないから」(70.8%)で、これに「業務集中度が落ちそうだから」(41.6%)▽「ワーク・ライフ・バランスを守れそうにないから」(28.5%)――などが続いた。
これまでの福利厚生システムは、余暇・休息の価値が重視され、「Work-Life Balance」として、仕事と生活(休息)を区分することに重点が置かれた。
一方、ワーケーションはそのうえ仕事と生活をすべて重視し、これを適切に混ぜた「Work-Life Blending」の形態と考えられる。この仕事と生活の混合が、むしろ負担になるということだ。
「仕事と生活の間に適切な線引きが必要だが、最近はデジタルへの転換(DX)などによってそれが崩れている。休暇生活は完全に仕事から離れなければならないが、ワーケーションは旅先まで仕事を持っていくという意味では『いったい、どれだけきちんと休めるのか』という問題が提起されている」
中央大社会学科のイ・ビョンフン教授はこう指摘したうえ、次のように要望する。
「ひと言で言うと、“仕事を休暇のようにすればいい”のだが、逆に“休暇を仕事のようにする”ことになる可能性がある。しかも、これまでの韓国の企業文化などの特性を考えれば、この状況へ向かう公算が大きい。IT業界などの特殊な事情からワーケーションが始まったが、今後、新たな労働形態として長期的に定着するためには、このような部分を解消する必要があるだろう」
一方、ワーケーションそのものが、福利厚生システムの幅を広げるという面もあり、それ自体は肯定的に捉えられているとの見方もある。
成均館大社会学科のク・チョンス教授は「ワーケーション自体は、各会社の状況とビジョン、業務の特性などによってそれぞれ適用される。社会全般に一律に適用することは難しいだろう」とみる。
ただ、MZ世代の労働者を中心に「自分の人生」をより重視する傾向が全般的に現れていることから「『出勤とワーケーションのどちらかを選べ』というのは当然ダメだが、選択オプションを増やすことは、長期的に見れば、労働者や会社の双方にとって良い方向になるだろう」と見通している。
(おわり)
「『ワーケーション』は定着するか」はNEWSISのオ・ドンヒョン、ユン・ヒョンソンの両記者が取材しました。
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