ストーリーを損なわないよう…
韓国ドラマを見ていると、不自然な形で商品が“こちら”を向いていることがあります。この「間接広告」(PPL)と呼ばれる手法は、高騰する制作費をまかなうための苦肉の策といわれてきました。しかしOTTの登場に加え、企業自ら優れたコンテンツを世に送り出すという手法も普及して状況が変わったようです。韓国の現状を見てみましょう。(シリーズ1/計5回)
山の中を歩き回る救助隊員チョン・グヨン(俳優オ・ジョンセ)は、後輩のカン・ヒョンジョ(チュ・ジフン)に「スキンケアをしなさい」と言って、コラーゲン入りサプリを手渡した……。
テレビチャンネルtvNのドラマ「智異山(チリサン)」のワンシーンだ。智異山にある事務所を宿舎にして生活している救助隊員のイ・ダウォン(コ・ミンシ)は、先輩のソ・イガン(チョン・ジヒョン)に「腹の足しに」と言って「エッグドロップサンドイッチ」を買ってくる。智異山管理事務所から最短距離のエッグドロップサンド店が約70キロも離れているのに、とネットユーザーたちは失笑する。
主役が毎回、シーンごとにアウトドアブランド「NEVA」の登山服に着替えるのもぎこちない。「智異山だからそれでも違和感が少ない」という反応もある。
「智異山」は韓国ドラマ2021年下半期で最も期待された作品だ。ヒットメーカーと呼ばれる作家キム・ウニ、「太陽の末裔」「トッケビ~君がくれた愛しい日々」「ミスター・サンシャイン」などを演出したプロデューサーのイ・ウンボク、さらにチョン・ジヒョン、チュ・ジフンら豪華俳優を含めて約300億ウォンという高額が投じられたからだ。
ドラマの完成度とは異なる次元で、PPLをめぐる議論がドラマの足を引っ張っていた――。
PPLは2010年、放送法施行令の改正を受けて本格化した。企業は商品をPRでき、制作会社は費用をまかなえる「ウィンウィン戦略」といわれた。ただ過度で露骨なPPLは、ドラマの展開をつまらなくし、視聴者がドラマに没頭するのを妨げるため、「ほどよい感じ」に調節する必要がある。
一流の脚本家であるキム・ウニでさえ、PPLから自由であるわけではなかった。「智異山」はもちろん、「シグナル」など彼女の他の作品でも、PPLをめぐる議論が繰り返されてきた。
◇「キングダム」で“PPLフリー成功”
PPLに対する視聴者の目線が、米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)の台頭で変わった。くしくも、キム・ウニのグローバルヒット作「キングダム」がネットフリックスの“PPLフリー成功例”となった。
「キングダム」は時代劇ということもあり、PPLによる制約は当初からなく、韓国国内では制作に名乗りを上げる社はなかった。ネットフリックスの支援を受け、世間に出ることになったというわけだ。キム・ウニ本人もキングダムについて「PPLを気にする必要がなく、自由に書いた」と明らかにしている。
視聴者はOTT、特にネットフリックスで「イカゲーム」など数多くの“傑作”韓流ドラマに接し、認識が変わった。つまり「お金を払ってみるドラマで、なぜ広告まで見なければならないのか」という不満が持ち上がるようになったのだ。
コンテンツ業界関係者は次のように分析する。
「タダの地上波ドラマに慣れた視聴者はPPLを我慢して見過ごしてきた。だが有料コンテンツが普通になった最近では状況が違う。YouTubeでさえ広告を見たくないため『プレミアム』サービスを利用し、クリエーター側が『裏広告』(消費者には「広告ではない」と嘘をついて広告を見せる行為)をつければ怒る、というのが最近の視聴者だ」
ただ、韓国で“PPLフリー”は容易ではない。ネットフリックスの全世界の加入者は2021年10月で2億1400万人規模。毎月の天文学的な視聴収入によって、ネットフリックスはコンテンツ制作会社に自信を持って「PPLフリー」を注文できるようになっている。
一方、韓国のOTT有料会員は多く見積もっても数百万人。韓流ドラマを率いてきた地上波放送局も収益面では苦しんでいる。
別のコンテンツ業界関係者は「もちろん、PPLはないに越したことはない。ただ韓国国内の制作事情を考えれば、やむを得ない。ドラマの流れを損なわないよう、いかにして自然な形のPPLにするか、制作陣は悩み続けている」
(つづく)