2024 年 5月 21日 (火)
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[KWレポート] 韓国社会を変えた法廷 (5)

トランスジェンダーの権利 (上)

©news1

短期間で急激な発展を遂げた韓国社会には、歴史の転換点で示された数多くの判決があります。そのうちの20件を通して、韓国社会の「時代精神」がどう変化を遂げたのか探ってみました。(シリーズ5/7)

長いストレートの髪、目鼻立ちがはっきりした女性が、カメラを凝視する。顔がクローズアップされると、ゆっくり唾を飲み込んだ。その時、喉仏がはっきりと見える。

画面に男性を象徴する記号が現れて、直ちにひっくり返る。モデルは明るく笑う。

ある化粧品広告に登場したハ・リス氏(47)=本名イ・ギョンウン=の2001年の姿だ。

性転換者がテレビ広告に初めて登場した瞬間だった。広告は大きな話題になった。ハ・リス氏はスポットライトを浴び、同時に性転換者に対する関心も高まった。

ハ・リス氏の登場は、韓国社会でタブー視されていたトランスジェンダー(出生時の戸籍の性別と性自認が異なる人)の問題をクローズアップさせるきっかけとなった。当時、あるメディアが性転換者の戸籍変更の可否に関するアンケート調査を実施したところ、反対37.8%が賛成35.8%をやや上回っていた。

政治を主導する大統領に忠誠心を示すネットワーク「制度圏」。ここでも意味のある変化が始まった。

2002年、当時の釜山地裁家庭支院長で元部長判事のコ・ジョンジュ(高宗主)氏が次のような論文を発表した。「憲法上、人間の尊厳と幸福追求権のため、性転換者に戸籍訂正を認める必要がある」

この年、性転換手術を受けた性転換者の性別訂正を初めて許可した。

ハ・リス氏も同年12月、仁川地裁で男性から女性への性別訂正を許可された。名前も「イ・ギョンウン」に改名した。同年以降、各地裁では性別訂正の判断がポツリポツリと出始めた。こうした流れは、4年後の最高裁判決まで続くことになる。

ハ・リス氏©NEWSIS

◇50歳を超えてはじめて認められた性アイデンティティ

2002年以後、全国で性転換者による性別訂正申請が相次いだが、その多くは受け入れられなかった。

キム・ジンファさん(71)=仮名=も性別訂正許可を受けていない性転換者の1人だった。

生物学的に女性として生まれたが、幼いころから自分の性は男性だと思っていた。性の主体性が芽生えてからは、男性のように行動しながら生きてきた。

キム・ジンファさんは周辺の人々に男性として認められる時、幸福感を覚えた。20代以降は本格的に男性として生活し、工事作業員など肉体労働にも従事した。

性転換手術を受け続けることを望んだが、経済事情が良くなかった。成人した後もしばらく手術を受けられず、41歳の1992年になってソウルのある病院で診断を受け、乳房や子宮などの除去手術と、陰嚢成形と人工睾丸の挿入術を受けた。

しかし、戸籍など公的な面で依然、女性として扱われた。キム・ジンファさんは家庭や社会で完全な男性と認められ生きていけるよう、裁判所に性別訂正を申請した。

2003年の1審、2004年の2審では、いずれも性別訂正が許可されなかった。「人の性別が出生時に性染色体によって決定されれば、その後は変更できないという事実は生物学的に明白だ」という判断からだ。

キム・ジンファさんはここで止まらなかった。

1、2審で相次いで敗れたが、最高裁の判断を受けることを望み、事件は最高裁に回された。そして2年後の2006年、最高裁は初めて、性転換者の性別訂正を許可するという趣旨の判決を下す。キム・ジンファさんが55歳の時のことだった。

◇最高裁「憲法上の基本権侵害」

最高裁は約2年間、事件を審理した。

その結果、「性転換者も人間として尊厳と価値を享有し、幸せを追求する権利と人間らしい生活をする権利がある」として原審を破棄し、事件を差し戻した。

最高裁は次のように判示した。

「転換された性を持つ者であると社会通念上、認識されている。転換された性であると法律的に評価されるべき性転換者であることも明白だ。それなのに『従来の性に従わなければならない』というならば、社会的に非正常的な人として扱われることになる。その結果、憲法上の基本権が侵害される恐れがある」

反対意見を出した最高裁判事さえも「性転換者の幸せ」を追求する権利のために「転換された性で活動できるよう配慮が必要だ」とした。また、最高裁は、国会の立法で解決しなければならない問題であるとも指摘した。

最高裁は判決後、「性転換者の性別訂正許可申請事件などの事務処理指針」も作り、性別訂正の許可基準も提示した。そこには▽満20歳以上の行為能力者であること▽婚姻した事実がないこと▽子供がいないこと▽成長期から先天的な生物学的性と自己意識の不一致によって苦痛を受け続けていること▽性転換手術を受け、外性器を含む身体外観が反対の性に変わったことが認められること――などが盛り込まれた。

また、添付しなければならない書類として、性同一性障害の患者であることを診断した精神科専門医の診断書と、性転換手術医師の所見書、両親の同意書なども明示された。

(つづく)

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