2024 年 7月 27日 (土)
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[KWレポート] 韓国社会を変えた法廷 (2)

「男だから給料を高く」がなぜ「違法」に (下)

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短期間で急激な発展を遂げた韓国社会には、歴史の転換点で示された数多くの判決があります。そのうちの20件を通して、韓国社会の「時代精神」がどう変化を遂げたのか探ってみました。(シリーズ2/7)

◇2011年の「コルテック事件」

2003年の最高裁判決から、さらに8年余りが過ぎた2011年4月――。最高裁で再び、歓喜の声が上がった。

女性だからという理由で賃金を差別された人々が、会社から支給されなかった賃金差額を返してもらえる――という判決が確定したためだ。

この事件は、楽器製造の「コルテック」に務める女性労働者が、同一価値の労働をした男性労働者と同じ賃金を受け取れなかったとし、その差額を支給するよう民事訴訟を起こしたもの。

争点は大きく分けて二つあった。

一つは、女性労働者が同一価値の労働をしながらも賃金差別を受けていたか否か。

もう一つは、そうだとしても、事業主に対する刑事処罰を超えて、さらに賃金請求権まで認めるものかどうか。

1審と2審は「コルテックが同一価値労働に対し、性別を理由に同一賃金を支給しなかった。差別を受けた賃金相当額を直接請求する権利もある」とし、女性労働者の手をあげた。この判決が最高裁で確定した。

この事件が重要なのは「2003年の最高裁判例を適用して同一価値の労働に関する判断を下した」ということ以上に、賃金差別の被害者が、差別によって受け取れなかった賃金を直接請求する権利を認めた、という点だ。

差別によって受け取ることができなかった賃金差額がいかにして算定されるべきかという点も関心事だった。

裁判所は、コルテック側に「技術と努力などを基準に労働価値を評価して賃金を決めた」と認めるほどの資料がなかったため、最も近接した時期に入社した男性労働者との賃金を比較して、算定しなければならない、と判断した。

最高裁の外観©news1

◇「真の意味の同一価値労働」

この二つの最高裁判決は、同一価値労働の定義と評価方法を提示し、これに伴う賃金請求権まで認めた。この点で、韓国社会に一つの重要な基準を設けたと判断とみなすことができる。

ただ、真の意味の「同一価値労働」を評価する基準はまだ存在しない、という指摘もある。

両事件とも事実上、同じ仕事をしていた人々に対する判断だったため、実際には「同一価値労働」というよりは「同一労働」に対する賃金差別を扱った判断にすぎない、という見解だ。

「コルテック賃金差別訴訟判決の意義」という論文を作成した韓国女性政策研究院のグ・ミヨン研究委員は次のように指摘する。

「本当のところ、二つの事件では『同一価値の労働』なのかどうかまで判断する必要はなく、“同じ労働なのか”だけの判断で良い事案だった。真の意味の同一価値労働に対する判例はまだない」

秘書と運転手、音楽療法士と薬剤師など、職業そのものは異なっていても価値を比較する。そうした業種間で賃金が異なるのは差別である、とするような事例も、今後はあってしかるべきだ、という。グ・ミヨン氏は「経営側で運用されている職務価値評価の方法論というものがあるが、実際にこれを取り上げて判断したケースがないというのは残念だ」と語る。

2003年の段階で作成された最高裁判所の判例解説には、このような限界が既に盛り込まれている。

「わが国の賃金は、男女を問わず、合理的な職務評価制度やその前提である職務分析が体系化されておらず、同一価値労働なのかを比較するのが非常に困難だ」

「同一価値労働・同一賃金の原則を適用するには、それぞれの職務の価値評価と、職務間の価値比較がなされなければならないが、これが事実上、極めて難しい」

とはいえ、今後求められるであろう同一価値労働の判断は、再び裁判所に任せるほかはない。

判例解説集の表現を借りれば「われわれの現実として、同一価値労働なのかどうかの判断は、全面的に裁判官に任されている」ためだ。

女性家族省©news1

◇初の最高裁判決から約20年…賃金差別まだ存在するか

「男女の賃金差別は経済協力開発機構(OECD)の中で最下位」「男性対比女性賃金66%」――。毎年のように、特別な理由なしに女性が賃金差別を受けていると報道されている。

女性家族省の昨年の統計によると、2020年の上場企業の男性1人当り平均賃金は7980万ウォンであるのに対し、女性は5110万ウォンと、格差は35.9%だった。公共機関でも27.8%の格差があった。

問題は中小零細企業だ。

延世大社会学科のキム・ヨンミ教授は「大企業と中小では、男女の賃金格差が生じるプロセスがかなり違う。大企業で作用しているのは『排除の論理』、中小企業では『直接的な賃金差別の論理』だ」と説明する。

中小企業では、女性が雇用機会から排除されるわけではない。しかし、明確な理由もなく、女性という理由だけで不利益を受ける場合が頻繁に起きるということだ。その背景には、事業主の差別的行動を抑制する公的な制裁手段がないためだとキム・ヨンミ教授はみる。

実際、中小零細業者の場合、賃金が体系的でなく、それを監視する手段もない。政府は労働基準法や労働法、男女雇用平等法などが禁止する差別に該当しない以上、賃金体系には干渉できない。

中小企業に在職する労働者が裁判所に提訴し、労働の価値と賃金体系を細部まで確認しない限り、差別があると知ることさえ難しいという構造であるわけだ。

このため、性別賃金格差の公示制を徹底し、個別労働者の賃金情報請求権を導入すべきだという声が、女性を中心に上がっている。

賃金格差公示制とは、性別による賃金にどれだけ差があるかを会社に公示させる制度だ。ソウル市は2019年3月、関係機関に「男女平等賃金公示制度」を導入している。労働現場に賃金公示制が導入された初めての事例だ。

賃金情報請求権は、ドイツで導入されているもので、個別労働者が自分と同じ価値の仕事をする集団の賃金を、直接請求できる権利だ。

(つづく)

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