火ぶた切ったプラットフォーム覇権競争
◇「ゲーム」を越えて現実に
「5年以内にフェイスブックをSNSからメタバース企業に変貌させる」。2021年7月、フェイスブック(現メタ)創業者マーク・ザッカーバーグ氏はそう言い放った。
「顧客がいつどこでもメタバースを経験ができるよう、最適化されたメタバースデバイスとソリューションを開発する」。今年3月、韓国サムスン電子のハン・ジョンヒ(韓宗熙)副会長はこう宣言した。
メタバース産業への投資に強い意思を示したメタとサムスン電子が協力する可能性――に注目が集まっている。
ザッカーバーグCEOとハン・ジョンヒ副会長が10月、サムスン開発者カンファレンス(SDC)が開かれた米カリフォルニア州シリコンバレーのサムスンリサーチアメリカで、2人が会ったことが明らかになったからだ。
「具体的な議論内容は確認できない」というのがサムスン側の公式立場だ。だが、両社が新事業として推進する分野が「メタバース」に帰結する。そして、時期も重なる。
最近、メタは次世代仮想現実(VR)ヘッドセット「メタクエストプロ」を公開し、サムスン電子はSDCなどでメタバースプラットフォームと各種機器間の「連結性」を強調した。
サムスン電子とメタのこのような歩みから、次世代プラットフォームを先取りしようとする意図がうかがえる。
◇覇権競争控え神経戦
両社はそれぞれスマートフォンとSNS分野で超一流グローバル企業になった。だが、グーグルアンドロイドとアップルiOSの壁を越えることができなかった。サムスンはギャラクシーストアを出したが反応が芳しくなく、フェイスブックはアップルとアプリ決済手数料問題で衝突してきた。
モバイルプラットフォームを掌握したグーグルとアップルは、いまや急ぐことはない。
アップルのティム・クック最高経営者は最近、ある現地メディアとのインタビューで「一般人がメタバースを正確に理解しているとは思わない」と話した。グーグルの元CEO、エリック・シュミット氏もメタバースの概念の混乱について言及した後、「メタバースが何か、ということについて合意されたものはない」と指摘した。
未来のプラットフォームを先取りするための新しい覇権競争を控え、互いに相手の顔色をうかがう神経戦が始まっている。
◇VR/AR機器で大衆化
グーグルプレイストア、アップルAPPストアのような特定プラットフォームにいったん従属すると、そこから抜け出すのは難しい――このことは多くのユーザーが経験しているだろう。
これに対し、韓国内外のIT企業は、パソコンとモバイルに続くメタバースプラットフォームを先取りするため、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、そうした技術の総称である「クロスリアリティ」(XR)、デジタルツイン(文末参照)など、メタバースの基盤技術開発・投資を拡大している。
メタがメタバース企業への転換を宣言したのも同じ脈絡だ。VRヘッドセットと拡張現実(AR)グラス(メガネ)など、独自のデバイスを基にメタバースプラットフォーム生態系を構築し、先取りすることでグーグルとアップルの影響から抜け出そうとしているようだ。
サムスン電子も以前からメタバース産業に関心を示してきた。2014年、メタと手を組んで発売したVRヘッドセット「ギアVR」の大衆化に失敗した後も、持続的な研究開発・投資を進めた。2020年4月、米シリコンバレーにあるARベースのホログラム・ディスプレイ企業「デジレンズ(DIGILENS)」へ追加投資を実施。また、昨年はサムスン電子が開発中であるとされるARグラスの映像が公になった。
さらに、サムスン電子は最近、韓国政府がメタバース産業の育成のために結成した「メタバースアライアンス」に加入した。サムスン電子は「ギアVR」「オデッセイプラス(Odyssey+)」など、VRヘッドセットを開発した経験をもとに、メタバース生態系構築の先頭に立とうとしている。アライアンスには現代自動車、SKテレコム、ウリ金融など200社余りの企業が参加している。
◇中国勢、値段はメタの4分の1
中国企業の攻勢も激しい。中国のVRヘッドセットメーカー「ピコ(PICO)」とARグラスメーカー「エンリアル(Nreal)」がコストパフォーマンスを前面に押し出した新製品を相次いで発表し、グローバル市場での影響力を拡大している。新製品「ピコ4」と「エンリアルエア」は、ともに40万ウォン(約4万1626円)台後半で、メタが最近発表した高級モデル「メタクエストプロ」の4分の1の水準に過ぎない。
グーグルとアップルはARグラスを準備している。グーグルは今年5月、「グーグルI/O2022」を通じ、実際の眼鏡と非常に類似したデザインで、リアルタイム翻訳機能を備えたARグラスを公開した。アップルは2024年の発売を目標にARグラスを開発していることが知られているが、まだ具体的な情報は公になっていない。
韓国科学技術院(KAIST)文化技術大学院のウ・ウンテク教授は「これまでの技術の流れを見ると、だいたい10年周期で変わっている。パソコンからモバイルになったように、今後は『メガネ用ディスプレイ』が脚光を浴びるだろう。メタ、アップル、グーグル、マイクロソフトなどの企業が投資を強化している。新たな規格が登場する時期になった」と明らかにした。
最近、韓国電子通信研究院(ETRI)が、遠く離れたところでも材質が硬いのか、荒いのか、柔らかいのかを感じられる次世代ハプティック(触感・触覚)技術を開発した。これは、仮想・増強現実の没入感を極大化できる技術であり、今後メタバース産業が発展する起爆剤の役割を果たすものと期待されている。
(つづく)
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ことば デジタルツイン(Digital twin)
現実世界に存在しているものを、デジタルの空間でリアルに表現したものを指す。現実世界と同じような仕組み・動きなどをデジタル空間にもつくり上げ、精度の高いシミュレーションを可能にする技術。
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