問題抱える組織と制度
韓国で警察官の現場対応が問題視される事態が相次ぎ、市民の間で不安の声が上がっています。直近に起きた事件とあわせて、現状を整理してみました。(最終回)
◇訴訟の負担は各自
事件後に民・刑事上の責任を問われる可能性、公権力の乱用という認識、組織内の冷笑主義――現場の警察官が物理力行使を避ける主な原因として挙げられる項目だ。
ここから導き出されるのは、警察官個人の消極性ではない。組織と制度に問題があるという視点だ。根本的な解決策を見出すためには、構造的問題に注目する必要がある。
今年3月、ある論文が発表された。東西大警察行政学科のファン・ジョンヨン助教授が著した「警察の物理的手段の使用忌避原因に関する分析――心理的萎縮と組織文化を中心に」だ。
ここには、地域警察官数十人の深層面接の内容が含まれている。
酔っ払いや精神疾患の患者らが凶器を振り回すなどの緊迫した状況に直面すれば、物理力使用マニュアルをそのまま守ることは難しい。一方で、過剰鎮圧だったのではないかと問題視され、法廷に立つ場合、焦点が当てられるのは、あくまでも「マニュアルを順守していたかどうか」なのだ。それゆえ、物理力行使に対する心理的負担が相当なものになる――。
実際、物理力使用後の損害賠償訴訟で数年間苦しめられたという警察官の証言が少なくない。
◇モチベーション維持は難しく
物理力使用後、「組織内保護の不備」による冷笑主義も広まっているという。
論文に記されているのは「銃器を使用して懲戒処分を受けたり、損害賠償訴訟に苦しめられたりする同僚警察官の姿を目撃し、組織内で(使用に消極的になる)学習効果が表れる」ということだ。苦情が申し立てられ、メディアの報道などがあれば、懲戒処分を前提にした監察調査が進められる傾向がある、とも指摘している。
勤務して2年11カ月になる30歳の警長(日本の巡査長に相当)は次のような認識を持つ。
「警察の本分である国民の生命保護のために考えなければならない制約要素が多い。銃やテーザー銃を撃ってうまく解決したとしても、それは“当然やるべきことをやった”という評価に過ぎない。その半面、相手に与えた小さな傷が問題視されれば、個人がそれに耐えなければならず、重圧と責任が大きい。(物理力使用の)モチベーションを維持するのは難しい」
◇心理的負担を減らせるか
こうした状況を受け、警察の内外では、警察官の物理力行使と関連し、民・刑事責任などを減らす措置を求める意見が出ている。職務遂行と関連して提訴された警察官には、弁護士と法律保険金による手厚い支援が必要だというものだ。
改正警察官職務執行法が今年2月に施行され、警察官の職務遂行に対する刑事責任免責の根拠は整えられた。緊急な状況で警察官の職務が最小限の範囲で遂行され、故意・重過失がない時には、情状を考慮して刑の減免あるいは免除ができる。
ただ、法律は「殺人や暴行、強姦など強行犯罪や、家庭内暴力、児童虐待が起きたり、起きようとしていたりして、他人の生命と身体に対する危害発生の憂慮が明白で緊急な状況」と、免責状況を限定している。
これでは、現場の警察官の心理的負担を減らすには十分ではない、という見方も出ている。
警察庁によると、制度が施行された後、実際の裁判で免責や減免につながった事例はまだない。制度が施行されたばかりであり、判例として定着するまでには時間がかかるとみられる。
◇求められる補充教育
治安の一線で活動する警察官が多様な状況に対処できるように、中身のある訓練が実施されなければならない。
韓国刑事法務政策研究院のスン・ジェヒョン研究委員は次のように訴える。
「適法で合法的な公権力の行使は免責になる。そうでない場合は処罰対象になる。事案別に異なるため、何よりも、現場対応能力を強化するための補充教育が実施されなければならない」
(おわり)
「身を隠す警察」はNEWSISのイ・ソヒョン、チョン・ジェフン、イム・ハウンの各記者が取材しました。
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