2024 年 12月 26日 (木)
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[KWレポート] 身を隠す警察 (2)

消極的になる現場での対応

現場対応力強化の特別教育を受ける新任警察官(写真=忠北警察庁提供)©NEWSIS

韓国で警察官の現場対応が問題視される事態が相次ぎ、市民の間で不安の声が上がっています。直近に起きた事件とあわせて、現状を整理してみました。(シリーズ2/3)

◇5回の警告にも包丁を下ろさず

韓国全羅南道麗水で起きた「エアボウ(airbow)」(矢を撃つ銃)による交番襲撃。この事件を機に警察の現場対応に対する批判が再び高まる。

一方で警察側にも事情がある。

警察が物理的な力を使うたびに国家人権委員会(人権委)に陳情されたり、訴訟を起こされたりする事例が増え、現場での対処が消極的にならざるを得ないのだ。

例えば、こんな例がある。

先月29日午後2時10分、光州市光山区月谷洞の保育園の近くで「外国人男性が刃物を持って周辺をうろついている」という通報があった。

ベトナム人男性(24)が右手で料理用の包丁を持ち、左手で電話しながら歩いていた。男性に警察官が近づき、警棒で男性の右手に叩いてナイフを落としたあと、警棒で殴ったり足で蹴ったりした。別の警察官は男性の背後からテーザー銃(電気ショック機)を撃ち、男性は苦しみながら道に倒れ込んだ。

地元の光山警察署は、男性を軽犯罪処罰法上の不安造成の疑いで聴取した。調べに対し、男性は「料理用の包丁を知人に持っていくところだった」と供述したという。

この事件に絡み、光州全南移住労働者人権ネットワークが今月4日、国家人権委員会(人権委)光州事務所に陳情書を提出した。警棒やテーザー銃による制圧は、相手の暴力的攻撃が前提となる。だが当時、男性は抵抗する意思がなかったことから、こうした措置は「過度な物理力の行使」であり、警察の物理力行使の基準と方法に関する規則に違反していると主張しているのだ。警察官がベトナム語でコミュニケーションを取ることもなかったという。

現場対応力強化の特別教育を受ける新任警察官(写真=忠北警察庁提供)©NEWSIS

◇現場で高まる不満の声

この一件をめぐり、現場の警察官の間では不満の声が高まっている。

ソウルで勤務する警察官は次のように訴える。

「警察がベトナム語で警告しなかったり、テーザー銃を撃ったりしたという理由だけで批判する人が多いですね。でも、そんな批判は、現実とはかけ離れている。そもそも、相手が外国人であることを認知できなかった可能性もありますよ。5回も警告したのに、包丁を下ろさなかった。そういう状況に遭遇すれば、現場の警察官はまず、相手が麻薬使用など特殊な状況だ、と認知するかもしれませんね。相手が凶器を持って威嚇している状況ならば、テーザー銃を撃ったとしても、それは正当な行為ではないでしょうか。なのに人権委の陳情などのように、今後、訴訟に巻き込まれかねない状況なのですよ」

人権委への陳情などが続けば、警察官の現場対応が消極的にならざるを得ないという懸念が、現場に広がっている。

ソウルの別の警察官はこんな話をしていた。

「制圧しなければならない対象が、目の前で凶器を持って威嚇する時、直ちにそれに相応する物理的な力を行使する……という行為が難しくなるわけだ。私の後輩や同期の中にも『過剰鎮圧』を理由に懲戒や訴訟に巻き込まれたケースが多い。そのような事例に接すれば接するほど、現場での対応はでき難しくなる。規則通りに仕事をしても、規則が保護してくれるわけではない」

◇危害性レベル

警察の現場対応の方法は2019年11月に施行された「警察物理力行使の基準と方法に関する規則」で定められている。

そこには、相手の行為の危害性レベルを次のように分類している。それぞれの行動に対し、警察が取ることのできる対応が規定されている。

▽順応→手錠
▽消極抵抗(非協力的)→警棒
▽積極抵抗(公務執行妨害)→噴射機
▽暴力的攻撃(腕力を使用して逮捕回避)→電気衝撃機
▽致命的攻撃(凶器などを利用して威力行使)→拳銃

積極的な法執行を支援するために、今年2月には改正警察官職務執行法が施行された。

現場の警察官は▽緊迫した状況において▽職務遂行中に他人に被害を与えても▽故意・重過失がなく、それが不可避だった――ならば、情状を考慮して刑事責任を軽減・免除されることになった。

だが、一線の警察官の間では依然、該当規則や法律が「無用の長物」だという声が出ている。規則通りに対応しても、事後に民事訴訟や人権委の調査などから逃れられないためだ。

◇「誰が情熱と使命感を持って働くだろうか」

全羅南道麗水の交番を、覆面姿の男が「エアボウ(airbow)」(矢を撃つ銃)襲撃した事件では、男は約12時間後、交番から5キロほど離れた住居地で逮捕された。事件当時に交番で勤務していた警察官は、机の下に身を隠すなどしたことから、批判が起きた。

東国大警察行政学科のイ・ユンホ教授は「適正手続きのもとでの法執行による結果は、政府、特に警察組織が責任を負わなければならない。そうでなければ公務執行をまともにできない」と指摘する。

「今はきちんと仕事をしても罪になり、自分に疑いがないことを自身が立証しなければならない。それゆえ、テーザー銃や銃器などによる適切な対処が、むしろタブー視され、こうした空気が警察に定着するようになった。警察が合法的な手続きに沿って公務を執行したならば、その結果によって起きた事件・事故は組織が責任を負わなければならない。そうでなければ、誰が情熱と使命感を持って働くだろうか」

(つづく)

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