「除け者にされた息子」対策も統計もない
韓国で今、就職難や家庭不和、いじめなど多様な理由で、部屋のドアを閉ざしてしまういわゆる「隠遁型一人ぼっち」(ひきこもりを表す韓国語)が増えています。実情を探りました。(シリーズ2/4)
◇「みんな、自分のことを嫌がる」
イさん(55)の場合、3年前、息子がひきこもってしまった。
息子が初めて、部屋から3日間、出てこなかった日のことをはっきり覚えている。
「普段から内向的な性格なので、話をたくさんする方ではなかった。でも、あんなに長く部屋から出てこなかったことはなかった。それが何年にも及ぶとは……。夢にも思わなかった」
その息子、Aさんは唐突に、「もうこれ以上、学校には行けない」というのだ。
なぜなのか? イさんが尋ねたが、答えはなかった。
学校を訪ねてみた。すると、Aさんは友人との関係が悪くなり、長い間、いじめられていた――という事実を知らされた。
イさんはAさんに転校を勧めた。だが「そこでもみんな、自分のことを嫌がる」と聞かなかった。
それから2カ月が過ぎ、ようやく息子にひきこもりの症状があることを認識した。
◇「家族のみんなが崩れ落ちそう」
苦しいのはAさんだけではなかった。
「家族のみんなが崩れ落ちそうな気分だった。他の人に話をすれば、変に思われるようで打ち明けることもできなかった」
イさんはこう振り返る。
「ひきこもり」の子供を持つ親は、いつ終わるかわらない孤立の時間を、ともに耐える。どこに助けを求めればいいのかわからない。
こうした状況にありながら、韓国ではひきこもる青年の正確な規模は把握されていない。
ひきこもりの数は年々増えている。
今年3月に韓国青少年政策研究院が発刊した「青年の社会的孤立実態および支援方法研究」報告書によると、調査対象青年2041人中「私は他の人々から孤立していると感じる」と答えた比率は13.4%だった。また「世の中に1人でいるような寂しさを感じた」という回答者は16.6%に達した。つまり、10人に1人以上が孤立感を覚えていたということだ。
普段あまり外出せず、だいたい家にいる、という割合は5.1%だ。2019年は3.2%、2020年は4.7%と徐々に増えている。
統計庁によると昨年5月現在の青年層人口は879万9000人。これに調査による数値(5.1%)を掛け合わせると、45万人程度が「ひきこもりではないか」と推測できる。
◇主にオンラインで過ごす
関連した実態調査もほとんど実施されていない。2019年に青年財団が発刊した「ひきこもり実態調査」が、その現状を知る数少ない手がかりだ。
財団はひきこもりの青年47人(男性31人、女性16人)とその親34人の計81人を対象に深層面接を進めた。
その中身をみてみる。
大半に、突っ込んだ会話を交わすような相手がいなかった。また、1、2人程度の限定的な人間関係を維持するにとどまっている例が多かった。
回答者のほとんどが、相談センターや精神科の治療を受けている。中には薬物治療の経験がある人もいた。食事は多くが2食以上、睡眠の質も良好な方という。1日の大部分をインターネットゲームやスマートフォンに費やしていた。
記者も、ひきこもりの数人にインタビューをした。その人たちも部屋に閉じこもっている間、主にオンラインで時間を過ごしたと答えている。
そのうち、6年間ひきこもり生活を送ったというチェさん(30)。
「家で両親と一緒に生活し、主にコンピューターゲームだけで時間を過ごした」
3年間、部屋の中にいたパクさん(30)。
「寝たりゲームをしたり、インターネットコミュニティに入ったり、映画を見たりした」
インタビューに応じてくれた人たちは「孤立するきっかけ」として▽対人関係が難しくなったこと▽学校生活に適応できなかったこと▽学業・就職の失敗――などを挙げた。
2019年から3年間、ひきこもり生活を送るキムさん(29)。
「社会生活を営んでいる時、人間関係がうまくいかなかった。それでひきこもることになった」
「ひきこもり実態調査」でも、青少年のころに除け者にされたり、高校に適応できなかったりしたと答えた青年が多かった。
ひきこもり期間は1~2年が最も多く、孤立直前や初期に、何とか家の外に出ようとする試みがあった。ただ、5年以上と長期化すれば、深い絶望感と無気力に陥る場合がほとんどだった。
2014年からひきこもりを支援している「青鯨リカバリーセンター」のセンター長を務めるキム・オクラン氏は次のように指摘する。
「ひきこもりにも『ゴールデンタイム』というものがある。助けを求める手が見えれば、その手を直ちに握ることができる機関や支援策が必要な理由だ」
◇実態調査に合わせた支援
専門家は政府の積極的な実態調査と支援が切実だと声を高める。
ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権は5月の国政課題発表で、いわゆるヤングケアラー、自立準備青年とともに、ひきこもりを「要支援青年」と位置づけ、実態把握・オーダーメード型支援体系を構築すると明らかにした。
韓国ひきこもり親協会のチュ・サンヒ代表は「ひきこもりを支援する専門機関の育成が必要だ。社会福祉士、心理カウンセラー、事務員ら、不可欠な人材への支援も推進しなければならない」と指摘している。
現在、各地域の福祉館に相談サービスがある。だが、ひきこもりに対する理解は低く、根本的な解決策を見つけるのは難しいという状況だ。
◇自尊心を取り戻せ
単純に働き口作りや資格証提供ではない。体育・文化芸術プログラムが必要だという意見もある。
キム・オクラン氏は次のように助言する。
「身体活動などと並行して、他の人と自然な形で交流できるような環境を整えるのが良い。美術や人文学的な授業を施し、この成果を披露する展示会や公演を開いたりするのも役に立つ。まずは達成感が必要だ。いじめや、度重なる失敗で損なわれた自尊心を取り戻すような」
ひきこもりはニート(NEET=仕事をせずに仕事をする意思がない)とは異なる方法で向き合わなくてはならない。心理的な健康を保障できるよう、小さくても成功体験を作らなければならない――湖西大青少年文化相談学科のキム・ヘウォン教授はこう訴えたうえ、次のように警告する。
「こうした措置が取られないまま、仕事に就くという支援ばかりをするのは、“底の抜けたかめに水を注ぐ”ことと同じだ」
(つづく)
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