2024 年 12月 27日 (金)
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[KWレポート] なぜ韓国軍は“北朝鮮越境”を防げなかったのか

監視カメラがとらえた男性の様子©news1

韓国江原道(カンウォンド)で元日、韓国人男性が、南北を隔てる軍事境界線を越えて北朝鮮側に越境しました。韓国では「男性が鉄柵を越えるのを監視兵らが見逃していた」などの批判が相次ぎ、関係者の責任を問う声も上がっています。事件を整理してみました。

江原道で1日夜、非武装地帯(DMZ)内で身元不明の男性1人が確認され、同午後10時50分ごろ、南北を隔てる軍事境界線を越えて、北朝鮮側に入った。韓国国防省関係者はその後、この男性を、北朝鮮から韓国に逃れていた「脱北者」と明らかにしている。韓国軍当局は当時、「監視兵らが見逃した」と認めた。

これについて韓国国内で「男性が最前方警戒部隊(GOP)の鉄柵を越えた時の初動対応が不十分だった」「GOP大隊長が男性を“越境者ではなく亡命者”と勘違いして逃した」などの指摘が相次いだ。これらについて、軍当局は「現場の状況では避けられなかった面もある」と釈明しているが、軍の警戒態勢に加え、状況報告・作戦遂行について弱点を露呈したという批判が相次いでいる。

なぜ軍は「鉄柵越えの北朝鮮行き」を逃したのか。国防省や合同参謀本部などの調査結果、国会国防委員会の報告内容をもとに事件の状況を再構成してみた。

資料:合同参謀本部

Q:男性がGOPの鉄柵を越える前、江原道高城(コソン)の民間人統制区域(軍事境界線からDMZを含む5~10キロ以内)で監視カメラに撮影されているのに、なぜその時に身元確認などの措置を取らなかったのか。

◇1日午後0時51分ごろ、民間人統制区域の警戒所が管理する中隊状況室で、この男性と推定される人物を監視カメラが最初にとらえた。同時に放送で「同区域に入るな」と警告した。すると男性は詰所に近寄ることなく、村の方向に戻る様子だったという。このため追加的な措置を取らなかった。

Q:男性がGOP鉄柵を越える時、監視兵はなぜ把握できなかったのか。

◇調査の結果、1日午後6時36分ごろ、男性がGOP鉄柵を越える際、監視カメラ3台が計5回、その様子をとらえた。科学化警戒システムでも警報音が鳴り、警告灯がつくなど正常に作動した。鉄柵の最上段にある「光網」(網形の感知装備)に一定以上の圧力がかかると警報音が鳴る。警戒所のモニターにも問題発生を知らせるポップアップウィンドウ(パソコン画面に自動的に開くウィンドウ)が表れた。

光網の変形は重要な事態だ。ポップアップウィンドウが表示されれば、映像を見ながら状況を改めて確認する。

だが最初にポップアップウィンドウが出た時、映像はぼやけていて、男性の柵越え地点は死角になっていた。このため「特異事項なし」と判断した。別の監視カメラの映像は「画面再構成」のプロセスであったため、確認できなかった。

また録画した映像を元に戻した際、映像を保存するサーバーの時計が、実際より4分34秒早く設定されていたため、柵越えの発生時の映像を即座に確認できなかった。

つまり、6時36分を基準に、それ以前の30分間(6時6~36分の映像)を確かめる必要があったのに、実際に確認したのは6時32分を基準にさかのぼった「6時2~32分」の映像だった。このため、柵越えの状況の映っている映像を確認できたのは、2日午前1時ごろになってからだ。

サーバー時計を1日2回、合わせよという指針が守られていなかったわけだ。

Q:最初にGOP鉄柵を確認した時、なぜ「異常なし」と報告したのか。

◇警報音が鳴ったあと、小隊長ら初動組6人が該当地域に到着し、鉄柵を点検した。405メートル先にある現場に6分で到着し、鉄柵言の異常の有無を3度も点検した。その時は特記事項は発見できなかったと報告している。

だが、その後の調査により、北朝鮮側の鉄柵の向こう側で、雪が積もった場所に足跡などの越境の痕跡が見つかった。韓国側の鉄柵と北朝鮮側の間にはなかった。鉄条網の上に指1本ほどの大きさの白い羽毛もついていた。男性のダウンから抜け落ちたようだ。だが、この羽毛は昼間でもよく見えないので、夜間はさらに探すのが難しかっただろう。

Q:軍事境界線(MDL)近くに現れた男性に対して、GOP大隊長が「亡命の可能性がある」と考えた理由は?

◇男性がDMZ内のMDL以南の地域へ移動する姿が、韓国軍の熱感知装置(TOD)で初めてとらえられたのが1日午後9時17分ごろ。GOP大隊では11分後に師団に状況を報告し、14分で合同参謀まで報告された。

現地の地形を見ると、MDL方向に渓谷の稜線が続いている。そしてTOD上では男性がMDLから韓国側の監視警戒所(GP)の方に移動するように見えた。しかも大隊長は午後6時36分のGOP鉄柵の状況が分からなかった。大隊指揮統制室長が大隊長に報告しないまま状況把握を終了したためだ。

このため、GOP大隊長は初期には、現場の地形や男性の移動方向、さらにはGOP、GPを通した過去の韓国への亡命事例などを考慮し、亡命の可能性を念頭に置いて男性の身柄確保のための作戦を展開した。その後、上級部隊との状況評価を経て、北朝鮮への越境の可能性まで念頭に置いた作戦に変更した。

だが作戦兵力は男性との距離を縮めることに失敗。1日午後10時49分ごろ、男性はMDLを越えた姿がTODに識別された。

(おわり)

「なぜ韓国軍は“北朝鮮越境”を防げなかったのか」はnews1のチャン・ヨンソク記者が取材しました。

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