
「BTSやSEVENTEENを観るために日本へ行く」──。K-POPブームの拡大にもかかわらず、その恩恵が本国・韓国には十分に及んでいないという指摘が強まっている。
近年、K-POPを軸とした大規模公演や授賞式の舞台はアジア各国へと移行しており、韓国国内ではそれを受け入れるインフラが決定的に不足している。CJ ENM主催の「MAMA AWARDS」は2023年と2024年に連続して東京ドームで開催され、2日間で9万人を動員。関連する経済効果は約1300億ウォンに上るという試算もある。
SEVENTEENは2023年、日本5都市で合計33万人を動員したスタジアムツアーを開催している。都市をテーマパークのように活用した「THE CITY」プロジェクトでは、スタンプラリーや限定グッズ、ブランドコラボなども展開され、自治体と民間が連携してK-POPを街ぐるみで体験できる環境を整えた。
しかし、K-POPの本拠地である韓国では事情が異なる。大規模な公演施設は事実上皆無で、4万人以上を収容可能な会場はソウルの蚕室総合運動場程度だが、2027年からの改修工事により使用不能になる。次点のソウルワールドカップ競技場もサッカー専用スタジアムで音響や視界の問題が指摘される。唯一のドーム型施設である高尺スカイドームも最大2万2000人と規模が小さく、使用可能な時期も冬季に限定される。
対照的に、日本は東京ドーム、京セラドーム、みずほPayPayドーム福岡など3万席以上の多目的会場が5カ所以上、1万席以上の施設は40カ所以上。韓国音楽公演産業協会も2024年末、ソウル市に対して「公演場不足対策」の署名運動を実施している。
加えて、K-POPを観光資源として商品化しているのは主に外国プラットフォームだ。AirbnbはSEVENTEENのデビュー10周年に合わせて、韓国でファン向け体験型コンテンツを展開。宿泊、ミュージックビデオ撮影地ツアー、録音スタジオ訪問などを組み合わせたパッケージを主導した。
また、旅行予約サイトTrip.comはG-DRAGONのコンサートやIUの海外公演に合わせたパッケージ商品を販売。航空券・ホテル・チケットを統合し、ファンの移動動線全体を商業化するビジネスモデルを構築している。
韓国国内の旅行プラットフォームも一部取り組みを始めてはいるが、依然として外国勢に後れを取っている。
公演がもたらす経済波及効果は極めて大きい。韓国文化観光研究院は、テイラー・スウィフトのツアーによる1カ国あたりの経済効果を1500億ウォンと推計。韓国政府もBTSの「MAP OF THE SOUL」ワールドツアーが実施されていれば、総額4兆ウォンの経済効果が見込まれていたとした。
こうしたK-POPの観光資源としての価値が韓国内で活かされていない点に、業界からは懸念の声が上がる。
インスパイヤエンターテインメントのイ・ヒョンミョン氏は「K-POPは単なるコンサートではなく、K-ビューティーやグッズ、ブランドコラボ、知的財産(IP)商品などを派生させる総合コンテンツだ。施設不足は観光産業の基盤を損ね、グローバル市場での主導権を海外に奪われかねない」と警鐘を鳴らした。
文化体育観光省は「K-POP公演需要は高まっているが、施設の供給が追いついていないのは事実」と認めている。イ・ジェミョン(李在明)大統領の公約にも公演場建設が含まれていることを説明したうえ、現在、地方自治体との協力を通じて改善策を検討中としている。
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