
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記の娘が初めて外交の場に姿を現し、形式的にも“ファーストレディ”の役割を果たしたとの分析が出ている。母リ・ソルジュ(李雪主)氏や叔母キム・ヨジョン(金与正)党副部長とは異なる、特別な政治的地位を象徴する行動と位置づけられる。
キム総書記は今月9日、ロシアの戦勝記念日を迎え、娘を伴って平壌のロシア大使館を訪問。娘は濃紺のスーツに髪を半分束ねたスタイルで父親の隣に立ち、ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使と握手し、頬にキスを交わすなど、外交儀礼に則った動きを見せた。
キム・ヨジョン氏やヒョン・ソンウォル(玄松月)党副部長ら、これまで側近としてキム総書記を補佐してきた人物たちが、同行はしてもあくまで補助的役割に徹してきたのとは対照的に、娘は「同等」の扱いを受けている点が注目される。
また、朝鮮中央通信の発表文で、チェ・ソニ(崔善姫)外相が娘を「最も愛されるお嬢様(his dearest daughter)」と表現し、10日付労働新聞も「尊敬すべきご令嬢(his dear daughter)」と記述するなど、住民や幹部に対し彼女が“最高指導者に次ぐ存在”であることを印象付ける報道が続いている。
昨年8月、キム・ヨジョン氏が新型戦術弾道ミサイルの引き渡し式で娘に一礼して案内する場面も確認されており、エリート層の間ではすでに“キム総書記の後継”という認識が共有されている可能性がある。ただ、現時点で娘が後継者に指名されたという証拠はなく、あくまで“象徴的存在”としての位置づけにとどまっているとも見られる。
娘は2022年11月に初めて公式行事(ICBM発射現場)に登場して以降、軍事、民生、教育、建設など幅広い分野で計41回の公開活動に参加。最近ではロシア大使館訪問や軍艦の進水式など、外交・安全保障分野でも存在感を示している。
今後、朝鮮労働党で公式な職責を得るか否かが、後継者としての地位を見極める一つのポイントになるとみられる。統一研究院のホン・ミン上席研究委員は「『お嬢様』という呼称は、北朝鮮の男性中心的な権力構造の中でむしろ制約を含む表現だ。彼女の“後継者”としての可能性よりも、まずはキム総書記の子としての象徴的な役割に注目すべきだ」との見解を示した。
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