
韓国エアプサン航空機の火災事故を受けて導入されたリチウムイオンバッテリー(モバイルバッテリー)の機内安全管理指針が、実効性に欠けるとの指摘が相次いでいる。この批判を受け、パク・サンウ国土交通相は制度見直しの意向を示した。
金海(キメ)空港で1月28日発生したエアプサン航空機の火災事故はモバイルバッテリーが原因と判明している。国土交通省は3月からバッテリーおよび電子タバコに関する機内安全管理強化の標準案を施行した。
この標準案では、バッテリーの機内持ち込みを義務づけ、100Wh以下なら最大5個、100Wh~160Whなら航空会社の許可が必要、160Wh超は持ち込み禁止と定めた。さらに、バッテリー端子(埋込み型・突起型問わず)が金属と接触しないよう、絶縁テープを貼るか、保護用ポーチまたはビニール袋(ジッパーバッグ)に入れて保管するよう指導している。
しかし、リチウムバッテリーをビニール袋で保管することで火災リスクが低減するかについて、専門家は否定的だ。
ビニール袋に入れることで熱暴走を防げるかについて、西江大学のイ・ドクファン名誉教授は「全く効果はない」と断言。「実験でもビニール袋に入ったリチウムイオンバッテリーが熱暴走を起こすと、即座に火災が発生する。国土交通省のこの対策は、机上の空論以前の問題だ」と厳しく批判した。
イ・ドクファン教授は、2016年以降、貨物機で運ばれるバッテリー製品について充電率を30%未満に制限したことで、火災事故が一件も発生していない点を指摘。「機内持ち込み用モバイルバッテリーも、航空会社が充電率を20~30%以下に制限すれば済む」と提案した。「充電率が40%の場合は熱暴走が起きやすいが、30%未満なら電気エネルギーが不足し、熱暴走を防げる」と説明している。
これに対し国土交通省は「ビニール袋保管は異物混入や短絡(ショート)防止、異常時の迅速確認が目的であり、火災を防ぐ手段ではない」と説明。「充電率30%以下の制限は国際基準として貨物輸送には適用されているが、乗客が持参するバッテリーは充電率の確認が困難であるため適用していない」と弁明した。
しかし、国内販売される多くのモバイルバッテリーには充電率が表示されており、国土交通省の説明は説得力に欠けるとの指摘もある。
さらに、この対策によって全国の空港で使用されるビニール袋の消費量も問題となっている。韓国空港公社と仁川空港公社によると、全国13空港(務安・襄陽空港を除く)で1週間に約9万6000枚が使用されている。仁川国際空港だけで1日1万枚、週7万枚を消費。金浦・済州空港などでも同期間に約2万6000枚が使用され、総消費量は10万枚近くに達している。
ビニール袋1枚あたりのコストは40~50ウォンと推定され、これにより週あたりの購入費用は400万ウォン(約44万円)を超える見込み。問題は、これらのビニール袋が大半はごみとして廃棄される点だ。
こうした批判に対し、パク・サンウ国土交通相は23日、国会国土交通委員会で「専門家や関係者の意見を聞き、環境問題も含めて再検討する」と述べた。
(c)NEWSIS