
北朝鮮のチェ・リョンヘ(崔龍海)最高人民会議常任委員長を中心とする「非公式エリート組織」が、かつてチャン・ソンテク(張成沢)元朝鮮労働党行政部長が掌握していた組織よりも遥かに広範囲かつ成功的に展開されている、との分析が明らかになった。チャン・ソンテク氏はキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党総書記の叔父。
これは韓国国会立法調査処のイ・スンヨル外交安保チーム調査官が13日に発表した報告書「北朝鮮エリート内の権力構造の変化と示唆点:チェ・リョンヘ非公式組織の公式組織掌握を中心に」で示された。
報告書は、キム・ジョンウン総書記が2012年の就任当初から粛清を通じて自らへの挑戦や任務の失敗を容赦しなかったものの、2017年10月の朝鮮労働党中央委員会第7期第2回全員会議でチェ・リョンヘ氏が「党組織指導部長」に任命されて以降、そうした粛清政治が影を潜めたと指摘する。
これを転機に、チェ・リョンヘ氏は自身の非公式ネットワークを公式組織へと転換し、チャン氏と同様に「職縁(職務を通じた私的関係)」を基盤とした人脈を、党・政府・軍の要職へと配置し始めたという。
実際、チェ・リョンヘ氏が2012年4月に朝鮮人民軍総政治局長に就任して以降、当時関係を築いたリ・ヨンギル(李永吉)総参謀長、キム・スギル(金秀吉)総政治局組織副局長、ノ・グァンチョル(努光哲)副参謀長は、それぞれ2018年5月に軍の三大首脳ポストに就いた。また、2017年以前は中央政界で目立たなかったチェ・フィ(崔輝)、パク・テソン(朴泰成)、チョン・ギョンテク(鄭京択)、キム・ジェリョン(金才龍)、リ・ヒヨン(李熙用)、パク・テドク(朴泰徳)、リ・ビョンチョル(李炳哲)の各氏も、2019年までに党中央政治局や政務局、専門部門に登用された。
こうした動きを通じて、チェ・リョンヘ氏はチャン氏以上の影響力を獲得。2019年2月の「ハノイ会談」決裂後には組織指導部長を退いたが、国務委員会第1副委員長や最高人民会議常任委員長というポストに就き、政治的影響力はさらに拡大した。
報告書は、かつてチャン氏が1980~90年代に青年同盟を中心に非公式組織を構築し、2007年には党組織指導部から行政部門を分離した「党行政部」を組織基盤としたことにも言及。だが2013年12月の処刑によって「北朝鮮の首領体制においては非公式組織の権力化は許されない」とされたにもかかわらず、それが再現された点に注目する。
報告書は「チェ・リョンヘ氏を中心に築かれた『支配エリートによる単一後見体制』は、競合エリートの不在の中で、今後のキム・ジョンウン体制の安定に大きく影響し得る」と分析。さらに「トランプ氏の再登場など国際秩序の急変が予想される中で、キム・ジョンウン氏の『正統性(legitimacy)』とチェ・リョンヘ氏の『執行力(executive power)』が安定的に維持されるかどうかが、北朝鮮体制の未来を決めるカギとなる」と結論づけた。
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