
「正直、簡単でした。面接が終わった瞬間、“合格”を確信しました」。韓国の大手企業でエンジニアとして勤務する男性は、今年でキャリア4年目の「中途新入社員」だ。2022年にある会社に入り、3年間の地方勤務を経て、昨年、同業界の別の社の新卒採用に応募し合格し、ソウルに拠点を移した。この男性は「面接では馴染みのある実務的な質問ばかりでスムーズに答えられた。面接官の反応からも手応えがあり、合格を確信した」と語った。
中途新入、いわゆる“実務経験のある新入社員”の需要が急速に高まっている。景気低迷の長期化、トランプ米政権による無差別関税、韓国国内の政局不安など、経営環境が悪化する中、企業は即戦力となる人材を“新入社員並みの待遇”で採用しようとする傾向が一層強まっている。一方で、未経験の新卒者にとっては“就職の門”がさらに狭まっているのが実情だ。
韓国経営者総協会が100人以上の企業500社を対象に実施した最新調査によると、今年新卒採用の計画があると回答した企業は全体の60.8%にとどまった。これは2022年の72.0%、2023年の69.8%からさらに9ポイント下落し、調査以来最低水準となった。
一方で、採用において「職務経験者」を最も重要視するとの回答は81.6%に達した。2023年の58.4%、2024年の74.6%から大幅に上昇し、3年間で20ポイント以上の伸びを見せている。実際、韓国経営者総協会によると、2023年時点で大卒新入社員の4人に1人(25.7%)が中途新入だった。
中途新入やジュニアレベルの経験者採用は、特にAIや半導体などの先端産業分野で活発だ。世界的なAI産業の急成長に伴い人材需要が急増する中、専門性を持つ人材は極めて不足しているためだ。
SKハイニックスは昨年、7回にわたり新卒・経験者採用を実施したが、そのうち2~4年の経験者を対象とする「ジュニアタレント」など経験者採用は4回にのぼった。サムスン電子も2023年から経験者採用の対象を従来の「4年以上」から「2年以上」に広げた。サムスンディスプレイは「フューチャーエリート」と銘打った2~10年経験の採用枠を新設している。
企業にとって中途新入は“即戦力”でありながら新卒待遇で採用できる“コストパフォーマンス”の高い選択肢であり、若い世代にとっては「より条件の良い会社へのジャンプ」をためらわない労働市場の流動性も追い風となっている。
しかし、この流れによって、実務経験のない“純粋な就活生”はますます狭き門に直面している。
同協会の調査では、今年「経済危機が訪れる」と考える企業は96.9%に達し、そのうち22.8%は「1997年のIMF危機よりも深刻」と見ている。このため、企業はまず新卒採用から絞り込んでいる状況だ。文系よりも就職に強いと言われる理工系卒でも、採用のハードルは一層高まっている。
こうした中、就活生は「実務経験」を積むために企業の専門人材育成プログラムへの参加に殺到している。
サムスンは、1日8時間、年間1600時間の集中的なソフトウェア教育を施す「サムスン青年ソフトウェアアカデミー(SSAFY)」を運営。第1期から第10期までの修了者8000人のうち6700人(84%)が就職に成功しており、SSAFY修了者を採用で優遇する企業は170社以上に達する。
業界関係者は「企業がこうしたプログラムを運営するのは、ESG経営の一環でもあるが、AIや半導体分野における人材不足という現実的な背景もある。プログラムの中で“目立つ若手人材”をいち早く確保する狙いも強い」と指摘している。
(c)news1